第29話 これが僕の異世界転生

 眼前には先程と変わらない光景が広がっている。

 先生がデバイスを差し出して、それを受け取れと言わんばかりに赤井が見つめる。


 ”もう迷いは一切ない”


 僕はデバイスを受け取る。

 先生は残念だという顔をした。


 それを見た赤井は嬉しそうに拍手する。


「そうだよな! 結局お前も人殺……」


 赤井が言い切る前にデバイスを頭上に放り投げる。


「……は?」


 白衣から爆発ポーションを取り出してデバイスに投げつける。


「や、やめ……やめろぉぉぉ!!!」


 赤井は止めようとするが、もう遅い。

 デバイスが爆発し、粉々に砕け散る。

 地面には先程までデバイスだった破片が散らばる。

 赤井は膝から崩れ落ちた。


「あはは! 傑作だなその顔! それ見れただけやったかいがあったってもんだ!」


「うわぁ……希望を見せてから落とすとか、性格悪いにゃあ。誰に似たんだか……」


「きっと先生じゃないですかね?」


「風評被害にゃ!?」


 僕が腹を抱えて笑っていると赤井は恨めしそうにこちらを睨みつける。


「分かってんのか! もうお前はヒーローに成れなくなったんだぞ!」


 赤井を無視して、先生に振り向く。


「先生、銃をお借りしても?」


「……前の政義ちゃんなら断ったにゃ、でも今の君はどうやら違うようだにゃ」


 先生から銃を借り受ける。

 その時の先生はとても晴れやかなものだった。


「えぇ、目が覚めた……というより、生まれ変わったって気分ですね」


「一度転生してるからにゃあ」


「ははは! 違いない!」


「政義ぃぃぃ!」


 赤井がマグマを射出する。


「僕はもう葉加瀬政義じゃない」


 銃のトリガーを絞ると光線がマグマを貫く。


「ダークヒーローでも、ヒーロー博士でもない――」 


 蒼炎のカードから炎の羽が舞い散る。


「僕の名前はザニア・レイブン。姉さんの弟で、メルクの主」


 羽が銃に集まり火炎が手を包む。


「そしてあいつらを守る――」


火炎がカラスの形を模る。


「ヒーローになる男だ!!」


『レイブンシューター!!!』


 火炎が勢いよく弾け飛び、手には飛翔した蒼いカラスが描かれた銃に形を成す。


「にゃ!? どうなってるにゃ!?」


「魔法ってやつじゃないですかね? だってここ剣と魔法の異世界なんですから。 奇跡くらい起こったっていいじゃないですか?」


「そういうもんなのかにゃ!?」


 先生は開いた口が塞がらないようだ。


「まぁでもせっかくの奇跡だ。それならいっちょ――」


 蒼炎のカードを銃にかざす。


「派手に飛ばすぜ!」


『ファーストバレット!』


 蒼炎の羽根が辺りを舞う。

 僕は銃口を自分に向けた。


「変身!」


 引き金を絞ると羽根が僕の全身を覆う。

 それが形を成して僕の姿を変える。


『飛翔せよ! 自由への青き翼!! ブルーレイブン!!!』


 蒼いボディースーツにプロテクター、顔はフルフェイスのヘルメット。

 背中にはカラスが描かれたマントに、腰からはデッキケースを常備されている。

 理想の姿、僕が思い描いた――ヒーローの姿だ。


 ”存分にこの力振るえ!”


「あぁ、有難く使わせてもらう!」


 僕が赤井を見ると、嬉しそうにこちらを見ていた。


「やっぱ変身したじゃねえか! それで俺を――」


「殺しはしないよ?」


「――なんだと?」


「君の自殺に付き合うつもりはないって言ったんだよ?」


 銃口を赤井に向ける。


「君殺したらエルヴィス君が死んじゃうじゃん? お前が墓穴掘って、ペチャクチャ喋ってくれたおかげで、その可能性に思い至ったよ。――だから取り戻すよ。僕の友達のエルヴィス君を」


「あはは! どうやるつもりだよ! そんな方法があるとで……」


「それが出来るんだよな~」


「……は!?」


 ”我に任せろ。魂の分離は我が魔法の得意分野だ”


 魔法ってそんなことも出来るのか?

 何属性になるのそれ?

 闇属性?


 ”衰退した魔法と一緒にするでないわ! それよりさっさと構えんか!”


 はいはい今は聞くなってことね?

 これが終わったら詳しく聞かせてもらうからな。


 僕はニヒルに笑う。


「まぁそういうことだ。あとは君を倒すだけってわけ、お分かり?」


 赤井は何かを否定するかのように首を横に振る。


「違う……無慈悲に殺戮的に戦うのがお前だっただろ! それがどうしたら生け捕りなんて言葉が出てくるんだよ! お前……本当に、政義か……?」


 怯えたように僕の名前を赤井が問う。

 それに笑い返す。


「僕はザニアだ。それ以上でも以下でもない。もう過去の因縁とか裏切られたとか、今の僕には関係ないんだよ? ――裏切れた過去じゃない。今の僕を信じてくれたあいつらを、僕は信じ続けると決めたんだ」


「お前に人を信じる事なんてできるかよ! 裏切られた癖に何言ってやがる! この嘘つきが!!」


 嘘つき……か……

 それも散々言われたな。

 でも今は!


「噓じゃないさ。嘘つきな僕だけど――これだけは僕の本心だ!!!」


 引き金を引くと火の弾丸が赤井を捉える。

 警戒したのかマグマで壁を作って弾丸を防ぐ。


「あれあれ? ビビッてる? 本気出せよ偽りの一位フェイクワン!」


「なめんな!」


 マグマの壁が獅子の形を成し、僕たちに襲い掛かってくる。

 僕は蜘蛛が描かれたカードを銃にかざす。


『モンスターリロード! アイアンスパイダー!!』


 客席に銃口を向け、引き金を絞る。

 蜘蛛の糸が銃から伸び、壁に引っ付く。


「先生、舌噛まないでくださいね!」


「にゃに……おぉぉぉぉ!!?」


 糸が急激に縮み、体が引っ張られた。

 僕は先生を横からかっさらい、宙を舞って客席に落下する。


「し、死ぬかと思ったにゃ……」


「このまま隠れててください先生」


 蒼炎のカードを銃にもう一度スキャンする。


『セカンドリロード!』


 背中から炎の翼が出現する。

 僕はそのまま赤井に向かって飛翔する。


「来るなよ!」


 マグマの波が押し寄せ、僕を潰そうとする。


「火には氷だよな?」


 狼が描かれたカードをスキャンする。


『モンスターリロード! ブリザードウルフ!!』


 引き金を引くと、氷の息吹が目の前のマグマを凍てつかせる。


「摂取千度はあるんだぞ!? 何で凍る!?」


「自分の力を過信しすぎなんだ、よッ!!」


 凍ったマグマを蹴り壊し、赤井に近づく。


「何故だ! 何故だ何故だ何故だ!!」


 赤井の手元に光粒子ブレードが出現し、斬りかかってくる。

 僕は左手を強く握りしめて迎え打つ。


「死ねぇぇぇ【必殺:焔雲】!!!」


「悪あがきにもほどがあるよ? 【ヒーロー式格闘術:岩砕】!!!」


 剣を頭上に上げた赤井は胴体が、がら空きだ。

 僕は体の中心を抉るように殴る。


「がっ!?」


 赤井は剣を落とし、うずくまる。


「そんな……弱い……技……で……」


「大ぶりな攻撃には初動が速い技を当てる。基本だろ? それにさ?」


 銃口を赤井の額に押し当てる。


「この世界の力を、君はなめすぎたんだよ。だからこうやって足元をすくわれる」


「あ、あぁぁぁ!!?」


 半狂乱の状態で逃げ回るが、銃口は変わらず赤井に向いている。

 トリガーに指をかけ、にこりと笑う。


「それじゃあさよならだ」


「嫌だ……嫌だぁぁ!!!」


 最後に蒼炎のカードをスキャンする。


『ラストショット!』


「やめろぉぉぉ!!!」


 赤井の泣き顔を見ながら引き金を絞る。

 パンッと乾いた音が響くと炎の弾丸が眉間を打ち抜く。

 そのまま赤井はぐったりと倒れた。


 体から、不透明な球体が出てくる。


 ”それが奴の魂じゃ!”


「了、解!」


 僕は透明なカードを取り出し、魂に投げつけた。

 不透明な物体がカードに吸収され、ポトリと地面に落ちる。


「やった、か?」


 ”あぁ我々の勝利だ”


 エルヴィス君の体を見ると額には穴などは開いてなくダメージはない。

 呼吸も脈もある。 

 生きてる……、


「よかった……」


 ”ダメージなぞあるものか! 我の攻撃は魂にのみ与え――”


 僕は突然足に力が入らなくなり、バタリと地面に倒れる。


「あ……れ?」


 ”限界のようだな……毒を食らった状態であれだけ動き回ったのだ、無理もない”


「政義ちゃん!」


 客席から先生が走り寄ってくる。

 その姿を見ると安心感からか僕の意識は段々と薄くなっていく。


 ”ゆっくりと休め、我が子孫……貴様は……よくやった”


 そう……か……

 だったら……

 いい……な……


 そしてここで意識が完全に途絶えた。

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