第27話 過去の因縁

「何の、つも――いや、今はそれよりも!」


 僕はメルクのデッキケースから慌てて複数枚取り出す。

 その中からリッチーが描かれたカードを取り出し。

 メルクの腕にあるデバイスにスキャンさせる。


『モンスターチャージ! リッチー!!』


 音と共にメルクの体は転移する。

 場所は僕の寮部屋、送りさせすれば、あいつが何とかするはずだ。


 だから僕は今は……


 僕は立ち上がって、エルヴィスを睨む。


「おう、怖い怖い。友達に向ける目じゃないな?」


「黙れよ!」


 僕は有無を言わさず拳で殴りつける。


「おっと危ない」


 エルヴィスは後ろに飛び退き、コロシアムの中心に着地する。

 僕を見上げるように、エルヴィスがニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。


「降りてきなよ~」


「言われなくも」


 僕は客席から高く飛び、そのままエルヴィスの顔面に蹴りを放つ。


「さっきから殺意高いな~【ヒーロー式格闘術:岩雪崩】」


 エルヴィスは僕の蹴りを片手で受け止め、そのまま投げ飛ばした。

 くるりと一回転して、着地する。


「今の技、僕はお前に教えてないぞ」


「あはは! お前はこの世界でも相変わらず間抜けだな! いい加減に気づけ!」


「この世界でも……だと……」


 僕は転生したことをエルヴィスには伝えてない。

 だから僕が転生者だということは知らないはずだ。


 だが、こいつは知っているってことは、僕と同じ転生者ということだ。

 しかも、前世の僕を知っている。


「――お前何者だ」


「おいおい、まさか親友の事忘れたんじゃないだろうな?」


 その発言で誰か分かった。

 僕が一番会いたくない相手だってことがな。


「僕に親友なんていない。今も昔もな、赤井流星」


「何だ分かってるじゃ~ん」


 赤井はニヤニヤとこちらを嘲笑するような笑みを浮かべる。

 それを鼻で笑う。

「お前も演技がうまくなったもんだな? あんな純真無垢みたいな奴演じるのに、自己顕示欲だけがデカい坊ちゃんがよく耐えられたもんだぜ」


「正確には俺がっていうより、もう一つの魂がしてたこと――って言いたいが、お前のおつむじゃ分からないだろうな? バカだから! それに何だよ僕ってさ! お前だっていい子ぶってんじゃねぇか!!」


「そうだな、だったらやめてやるよ! お前に対して嘘ついてやる理由なんて、オレにはないからな!」


 白衣から爆発ポーションを取り出して投げつけた。

 赤井は避ける様子もなく、そのまま爆発に巻き込まれる。


 爆発の煙が晴れると赤井は無傷で変わらず立っていた。


「バカだな? 何の対策も取ってないと思ったの?」


 赤井は腕をまくるとそこには近未来的な腕輪がはめられていた。

 しかもその形状と効果は、僕がよく知っているものだ。


「なんでお前が、量子バリア装置持ってるんだよ。オレ達の元の世界のもんだろそれ」


「なんて言ったけかな? あぁそうそう転生特典? とか言うらしいよ」


 赤井の手元にマグマをかたどったデバイスが出現する。


「元の世界から自由に転送できる力か」


「大正解! バカにしては察しがよかったな?」


 小バカにするように赤井は笑う。


「なるほどな。ようやく合点がいった。その力使ってお前は裏で色々と動いてたってわけか。王子誘拐も影の封印解いたのもお前の仕業だな」


「あったり! 他にも王子たち洗脳して、けしかけたり。乙女ゲーの敵キャラ? とか言うのもヒーローになってぶっ倒したりしたよ。ヒーロらしく、ね?」


「一応聞いてやるよ。お前の目的はなんだ」


「目的? そんもの決まってるだろ?」


 赤井は腹にデバイスを近づけるとベルトが出現し、巻き付いた。


『マグマレオ! スタンドアップ!!』


「お前と戦うためだよ!」


 周囲にマグマが噴き出し、赤井に集まっていく。


「変身!」


『オッケー! レッツ、ゴー!!』


 赤井の体をマグマが包み込むとマグマが形を成す。

 獅子を模った赤いボディスーツ、それを見るだけで人々は希望を託そうとするのだろう。

 だけど、その中身がどういう奴か知っていると、大好きなヒーローなのに、嫌悪感しか抱けない。


「勇気と希望を真っ赤に燃やす。ヒーロー、マグマレオ参上ってな!」


「お前のどこに勇気と希望があるんだよ。嫉妬と劣等感で燃えてるだけだろ? こんなのが元ナンバーワンヒーローかと思うと泣けてくるな?」


 オレがそう言うと後ろにある壁が、突然消失する。

 赤井が射出したマグマの熱で溶けたようだ。


「元じゃねぇ! 今も昔も俺はナンバーワンヒーローだ! なのに前世で俺がなんて呼ばれてたと思う!」


偽りの一位フェイクワンだろ? 昔のオレなら否定した噂だが、今のお前見てると妥当な評価だろ? ヒーローの名を汚すなよ赤井」


「さっすが言うこと違うな! ダークヒーロー元ナンバーワンはヒーローの名を汚してなかったのかな!!」


「……」


 オレは無言になる。

 その話はしたくないと意思表示したが、赤井は喋り続ける。


「正義を執行しなくなったヒーローを殺して、民衆から感謝されて楽しかったか? 強い強いと煽てられて、さぞいい気分だっただろ? だけど結局お前はただの人殺しだろうが!!」


「……確かにオレが人殺しという事を否定するつもりはない。――だけどお前にだけは言われたくない! オレを殺したお前にだけは! 信じてたのに、親友だと思ってたのに!!」


 オレの死因、それは信じていた親友からの裏切りだ。

 怪人にオレを殺させ、自分は手を汚さずオレを処理したんだ。


 その事実でオレは今世でも信じることに抵抗感が拭えなかった。

 また裏切られるんじゃないかと不安だった。

 せっかく手を差し伸べてくれた奴だっていたのに……

 こいつのせいで、オレは信じきれなくなった!


 オレが睨むと赤井はそれを嘲笑う。


「最初からお前なんて親友なんて思わってねえよ! 俺の太鼓持ちだけしてればいいものを、ダークヒーローになんてなりやがって! しかもやることやったら、お前は途中で引退して、博士になったよな? それは別にいい。引退したのなら、これからは俺の天下だったはずなのに、皆口々に言いやがる! お前がいた時の方がよかったと、お前の方が強かったと!!」


「知るかよそんなこと! 元々やめたかったんだ! ダークヒーローなんて存在をオレは認めてなかった! オレだって誰かを守るためヒーローとして力を振るいたかった! でもあの世界がそれを認めなかったから、仕方なく戦っただけだ! それが終わったから、オレはみんなに力を与える仕事をしようとして何が悪い! お前に殺されるほど恨まれる筋合いなんて全然ないだろうが!!」


 両者、息を切らしながら心の内を叫ぶ。

 だが、やはり相容れないという事しかわからなかった。


「はぁ……まぁ、いいさ。どっちが正しいかはここで決着つければいいだけだ」


 赤井が手元にオレが見覚えのあるデバイスを出現させ、投げつけてくる。

 それをキャッチし、確認した。


 毒蛇をイメージしたデザインのデバイス。

 オレが前世で使っていた変身アイテムだ。


「変身しろよ! そして戦え! 今度こそ俺こそが最強だと証明する!」


「お前の企みなんてもうどうでもいい。だけど……」


 オレは腹にデバイスを近づけるとベルトが出現し、巻き付く。


『デットリーポイズン……ドロップアウト……』


「メルクを傷つけたお前を、絶対に許さない! お前を殺して、オレはメルクたちとの日常を取り戻す! ――そのためにお前は、邪魔だ!」


「いいね! 目的のために殺す! お前はそうでないとな!!」


 デバイスから毒がオレの体に流れ込む。

 肌に芋虫が這いずっているような気持ち悪さ。

 胃の中の物を全て吐き出しそうだ。


 ”あぁ、何もかも懐かしい”


 この感覚だけがオレの心を無にしてくれる。

 今から起こる凄惨な出来事全てを、この気持ち悪さに集中してれば、感じずに済む。


 ”戻るんだ……あいつらの元に……例え、この手を血に染めようとも!”


「毒を持って毒を制す、ヒーローの力でヒーローを殺す……」


 赤井を睨みつける。


「覚悟はいいか、ヒーロー失格」


「こいや! 三下!!」


 オレはデバイスに手をかざす。



「変――」


「ちょっと待つニャー!!!」


 瞬間、オレのデバイスが飛来した光線によって弾かれる。

 変身が中断され、毒が流れ込まなくなり、気持ち悪さから解放される。


「誰だ!」


 声のした方へ赤井と同時に振り向くと、客席に一つの人影。


 白い髪をたなびかせ、ニヒルな笑みを浮かべる猫耳少女。

 ビリー王国第二王女、シエナ王女の姿だった。

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