第16話 チーム結成

 俺は目を覚ますと知らない部屋の椅子に座らせられてたっす。

 辺りは薄暗く、よく見えないっす……

 メルクと呼ばれていた女の子に超高速で運ばれる間に気を失って目を覚ましたらこの状況、しかも――


 腕や足を動かすと拘束具がカチャカチャと音を立て、椅子から逃がさないようにされている。


 つまり監禁さてるというわけっすね。

 なるほどなるほど。


 俺は息を深く吸い込んで――、


「誰かぁぁぁ!! 助けてほしいっすぅぅぅ!!!」


 大声を叫んで助けを呼ぶが声は空しく部屋に響くだけで、誰も返事してはくれない。

 その代わりにコツコツとこちらに歩いてくる人影があった。


 白衣を見にまとい、マスクとサングラスで顔を隠し、紫髪の長身の人影。

 この不審者にものすごく見おぼえあるっす。


「ザニア君? 何してるんすか?」


 そう質問するとザニア君は白衣をバサッとはためかせる。


「はっはっは! ようこそ我がラボへ!!」


「テンション高いっすね……ってそうじゃなくて!? これほどいてほしいっす!!」


「それはできんな。これから改造手術を行うのだからな!!」


 改造、手術? 何を? 誰を?

 まさかと思い、指を自分の方へ向けてザニア君に確認をとる。

 するとザニア君はニコリと笑って首を縦に振る。


「……ちなみに拒否権は?」


「ない」


「誰かぁぁぁぁ!!!!」


 椅子の上でバタバタと暴れるが拘束が外れる様子がない。

 魔法発動させようとしても魔力が霧散するっす!?

 何なんすかこの椅子!


「フハハ! 泣き叫んだところで誰も助けには――」


「何やってますの、よッ!!」


「いてッ!?」


 ビシッという音ともにザニア君が頭を抱えてうずくまる。

 背後にはハリセンを持ったバージニアさんが仁王立ちしていた。


「何すんのさ、姉さん」


「あなたこそ、それが客人に対しての態度ですか!!」


「男の子なら誰でも憧れる。目が覚めたらヒーローになってました! 的な展開をプレゼントしようとしただけなのに……」


「それで喜ぶのは貴方だけですわ!!!」


 わーわーと姉弟喧嘩を始めてしまって俺置いてけぼりっす。

 いったいどうゆう状況なんすか?


「……何やってるのですか、二人とも」


 パチという音が鳴ると突然部屋が明るくなり、辺りがよく見えるようになる。

 床は設計図のような紙が散乱し、棚には薬品や実験器具、そして大量の魔道具が飾られた部屋。

 研究室、という言葉が一番しっくりくるっす。


 部屋の入口からカツカツと先程助けてくれた女の人が歩いてくる。

 

 確かメルクさんだったっすかね?

 普段の制服ではなくメイド服姿なのが印象的っす。


 ため息をついてメルクさんはザニアさんを見る。


「主様もおふざけが過ぎますよ。エルヴィス様に洗脳の類を掛けられてないかの検査のために拘束していただけでしょう? もう終わったのですか?」


「「えっ!?」」


 バージニアさんと俺は同時に驚く。

 この拘束にそんな意味あったんすか!?


 ザニア君はボリボリと頭をかいてニヒルに笑う。


「問題なく終わったよ。特にその痕跡もないから単純にナタリアに惚れてるだけっぽいね。――女の趣味が悪い、とだけは言っておくよ」


「ひどい言われようっすね!? ナタリアだっていい所あるんすよ?」


「……ほんと、あんな女のどこがいいのやら」


 ザニア君は吐き捨てるようにそう言って、俺の拘束具を解いてくれたっす。

 どんだけ嫌われることしたんすかナタリアは……、


「――何か、ナタリアが申し訳ないことしたみたいっすね」


「君が謝ることないさ。僕個人として彼女が苦手なタイプってだけだから気にしないでくれ」


 手をひらひらとさせ、気にしていないとザニア君はジェスチャーする。

 ジト目でメルクさんがザニア君を見た。


「同族嫌悪ですか? 主様も対外性格が悪いですしね」


「最近メルク僕に対して辛らつじゃない!?」


 メルクさんは淡々とそう言うとザニア君は膝をついてショックを受ける。


 なんか数日前会った時と印象違うっすね?

 感情的というか、柔らかい印象だ。


 むしろ、その印象に近いのは……

 メルクさんの方に目を向ける。


 視線に気づくと無表情でメルクさんはこちらを見た。


「何でしょうかエルヴィス様、ワタシの顔に何かついていますでしょうか?」


「ち、違うっす! メルクさん、でしたっけ? 前にどこかで会ったことないっすか?」


 俺がそう言うと全員が目を開いて驚いた表情をする。


「な、なんすか? 俺間違ったこと言ったっすか?」


「いや、むしろ驚いてるんだよ。どこで会ったとか具体的に言える?」


「会ったというか、数日前のザニア君の印象がメルクさんそっくりだったので……あ! 失礼っすよね。男の子に印象が似てるって言われても――」


 メルクさんは少し笑い、むしろ嬉しそうにしている。


「いえ、間違ってないですよ。あの時はワタシが主様に変装していたので、バレると思っていませんでした。むしろあの時は失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした」


 メルクさんは深くお辞儀をする。


「いやいや、むしろこっちがお礼を言わなきゃいけないんっす! ――あの時の言葉がなければ今でもナタリアの行動を見て見ぬふりをして生きてたはずっすから」


 お互いにエンドレスにぺこぺこと謝り合う。


「……姉さん。僕のいない間になんかあったの?」


「変装したメルクがエルヴィス君をしかったのよ。人に運命の選択権を勝手に委ねるな! だったかしら? 確かそんなこと言ってた気がするわ」


「……メルクらしいね。僕じゃそんなカッコイイセリフすぐに出てこないよ」


 遠くにはザニア君とバージニアさんがこそこそと耳打ちしながら話しているっす。

 レイブン姉弟仲いいっすね。

 話が終わるとザニア君が手をパンと鳴らして注目を集める。


「はいはい、二人とも。謝りあうのもいいけど本題入っていいかな?」


「本題っすか?」


 ニコリとザニア君が手を合わせて微笑む。


「そう、簡単に言っちゃえば。君に今回の決闘に参加してほしいんだ」


「あっ、そうすっか」


 決闘って、確かナタリア達が受けた無罪を賭けた勝負の事っすよね。

 申し訳なさそうにザニア君の表情が曇る。


「ごめん、これだけは拒否権ないんだ。――だけど安心して、君は棄権してもいいから名前だけ貸してほしい、頼むこの通りだ」


 ザニア君は頭を下げる。


「ちょ、頭上げてほしいっす!? そんなことしなくても受けるつもりだったっすから! むしろこっちからお願いするつもりだったっす!!」


「えっ?」


 ザニア君は不思議そうにこちらを見つめる。

 そんなに了承したことが意外だったすか?


「お願いするつもりって、いいのか? ナタリア達と戦うことになるんだぞ?」


「そこ気にしてたんっすか……もう覚悟は決めてたっす。ナタリアが間違ってるなら俺が止めて戻してあげないといけないんす」


「いや、だって……」


 ザニア君はポリポリと頬をかき、心配そうにこちらをチラチラと見てくる。

 その様子にメルクさんはため息をついた。


「なんでこういう時の主様って、ヒーロー研究に巻き込む時のようにグイグイいかないのでしょう?」


「ほんとですわよね。散々人に迷惑かけるくせに、こういう時だけ常識人ぶるんですわ」


「聞こえてるからね二人とも!?」



 メルクさんとバージニアさんがひそひそと話してるがザニア君には丸聞こえだったみたいで、さっきの暗い表情がどこかに吹っ飛ぶ。

 本当にコロコロ表情が変わる人っすね。


 ザニア君がゴホンと咳払いをして話を戻す。


「とりあえず、参加してもらえるって事でいいのか?」


「もちろんっす。俺に出来ることは何でもするっすよ」


「……へぇ」


 俺がそう言うと三人がニヤリと笑った。

 あれ? 俺もしかしてとんでもないこと言ったのでは!?


「じゃあ君には二週間みっちり特訓を受けてもらおうか。今のままでも強いけど念には念を入れてね」


「あっ、案外まともでよかった」


「――何言うと思ったのさ?」


 心外だと言わんばかりにザニア君がすねる。

 いや、本当に申し訳なかったっす。


「さて、とりあえず僕たちが教えられる君の成長方針は三つ」


 メルクさんが一歩前へ出る。


「ワタシが師匠となり、肉体を鍛え、魔法が使えない状況でも戦えるようにするスタイル」


 次にバージニアさんが一歩前に、


「わたくしが先生となり、魔法知識と戦闘時の魔法の使い方を教えますわ。魔法中心に強化する魔法特化の戦闘スタイル」


 そして最後にザニア君が満を持して出る。


「最後が僕、魔道具の知識や使い方をレクチャー、二週間で魔道具使いのスペシャリストにしてやるよ」


 三人が俺の前に立ち、ニコニコと笑う。

 こ、怖いっす……


「二週間しかないから、誰か一人しか受けられないけど……もちろん僕だよね?」


「何言ってますの、わたくしですわよね?」


「何を言ってるのですか? ワタシですよね?」


 俺の育成方針をめぐって三人がバチバチと火花を散らしている。

 でもいいんすかね? 俺なんかがこの三人に教えを受けても……


 メルクさんは確か入学試験で体育の成績トップ。

 バージニアさんは魔法科目成績一位の学年首席。

 そしてザニア君はそれ以外の成績上位の秀才。


 この三人から受ける授業なんて校内でも羨まれるレベルなんすけど――、


「魔法使い仲間を増やす絶好の機会ですわ」


「そろそろ組手相手を増やしたいと思っていましたので」


「ヒーロー候補を増やすチャンス」


 ふっふっふと三人は不敵に笑っている。

 三人とも思惑ががあるんすね……なら、俺も気兼ねなく教えてもらうっす。


 ……この中で選ぶ、か。


 なら俺は――。

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