第12話 こっからは僕のターン
「よくもうちの
優しい姉さんをここまで追い込みやがって、絶対に許さない。
僕は王子どもに向けて、中指を立てる。
「さぁ始めようぜバカ王子ども、こっからは僕のターンだ! この代償は高くつくから覚悟しておけ!!」
王子たちは青筋がぴくぴくと動く。
「バカ王子と、今貴様は俺にそう言ったのか」
「何度も言わすなよ。そこのナタリアとかいう悪女に騙される、お前らにはピッタリのあだ名だろ?」
「俺たちを王族と知っての事か!! 不敬罪で訴えるぞ!!!」
王子たちは煽り耐性ゼロ、ダメだなこいつら……
他人の精神を揺さぶるのは交渉の基本だろうに、こんなのが未来の王国の指導者かと思うと泣けてくるよ。
僕は口に手を当てて笑う。
「あれあれ? この学園で身分振りかざすのは校則違反ですよ。そんなことも知らないんですか? 校則覚えられないくらいおバカさんなのかな?」
「建前だろそれは! 貴族なら階級が上の者にへりくだるべきなんだ!!」
僕も注意したことあるとはいえ、今更それ取り上げるのかよ……
まぁアホなナタリアと違って、普通に言い返せるけどな?
僕はナタリアに指を向ける。
「だったら、その平民も不敬罪な? 公爵家にため口を聞いて、挙句王族にもへりくだらないそこの腹黒女も同罪だ。それにこれは他の一般生徒からも不満の声が多数あがっている。俺の女だけは特別なんですぅ――なんてふざけたことぬかすなよ? それで? 王国のルールに乗っ取って僕とその女を罪に問うのか、それとも学園の校則適応して二人とも無罪としてなかったことにするか、どっちがいい?」
「くっ!!」
ナタリアのことを言われるとアンドレイ王子は何も言い返せず口をつぐんだ。
言い返せないとか口論弱すぎか? どんだけ甘やかされてきたんだかね?
僕は手を合わせてニコリと笑う。
「さて、僕の不敬罪がなくなったってことで――本題に入ろうか」
「ほん、だい?」
呆けた顔で僕を見つめる四人。
何を寝ぼけてやがる、自分たちのやったことの自覚がまだないのか。
「決まってんだろ? お前ら四人の国家叛逆罪についてどうするかだよ」
「「「「はっ!?」」」」
国家叛逆罪という言葉を聞いてみんな一斉にざわつきだす。
これは二か国で最も重い罪の名前、それを四人も何て前代未聞だった。
「内容は、国家文書の偽造、要人貴族の暗殺未遂、及びほう助と監禁、そしてレイブン家への地位を貶める名誉棄損だ。ちなみに全部証拠そろってるから、逃げられると思うなよ?」
負けじとアンドレイ王子が言い返す。
「き、貴様にそんな権限はないだろう! その罪に俺を問えるの――」
「父上、つまり生まれた国の王様による権限が必要、だろ?」
「そ、そうだ。だから……」
「だから罪に問えないって? あまいんだよ」
僕は懐から一枚の書状を取り出し、広げて見せる。
それを見た瞬間、アンドレイ王子とイゴールが青ざめた。
「そ、それは……王の紋章が入った委任状……」
「正解、レイブン家は王様と仲が良くてね。今の王子様の現状説明したら快く書いてもらえたよ。つまりこの場においては、僕は王様からの推薦者、だからお前らを裁くことが出来んだよ」
「そん、な……」
逃げ場がないと判断したのか、アンドレイ王子とイゴールは膝をついた。
ナタリアも慌てるのが見て取れる。
だが……、
「ははは! 傑作だなお前ら!!」
ウォルター王子がナタリアを抱き寄せる。
そうなんだよなぁ、こいつが残ってるんだった、めんどくさい……、
「俺様はビリー王国の人間だ。その委任状じゃ俺様は裁けない! ナタリアも俺様の国嫁にこい、国籍が変われば誰もナタリアを罪には問えまい? そしたら罪に問われるのはお前ら二人だけだ!!!」
「ウォルター! 貴様ぁぁぁ!!」
ウォルター王子が高笑いして、アンドレイ王子が悔しさに歯を食いしばっている。
ここでもどろどろとした逆ハーレム的展開しなくていいんだよ。
僕はわざとらしくため息をつく。
「確かに……他国の王族を裁くことは、この委任状じゃ出来ない」
「そうだろうそうだろう。俺様とナタリアはここから高飛びだ!」
僕はニヤリと笑う。
本当に僕がその可能性を考慮せず、お前を見逃すとでも?
「ウォルター王子、これを見てから高飛びの計画は立てたほうがいいと思うよ」
「……なに?」
僕はもう一枚の書状を取り出す。
それはビリー王国の紋章が入った委任状だった。
これで他国のお前を罪に問える。
もちろん、ナタリアもだ。
「だ、誰がそんなもの!!!」
「君をよっぱど継承権第一位の座から引きずり落としたい人がいたみたいだね? いやぁ大変だったよ。この書状書いてもらうために一週間もかかった。」
「ま、まさか……シエナを口説き落としたのか!? あの堅物が何でお前みたいな奴に協力を!?」
シエナとはビリー王国第二王女の名前だ。
ウォルターと違い、頭が回る才女だが、兄のように魔法を扱う才能はなかったようだ。
仕方なく、継承権第二位の座に居座っているが、魔法が人より使えるだけのバカな兄の愚行に以前から腹に据えかねていたらしい。
それでもウォルター王子はあれでも王族、簡単には罰する権限を他者に、ましてや他国の貴族に与えるわけにはいかない。
確かに交渉は簡単にはいかなかったが、とある条件付きでシエナ王女から委任状を書いてもらえた。
本当に運がよかったと思う。
そのことを言わず、僕は人差し指を口に当てる。
「企業秘密さ。まぁこれで、君らを僕の采配次第で、死刑にでも何でもできるわけだ?」
四人がビクビクと震えてこちらを見る。
おいおい、僕がまるで悪党みたいじゃないか?
悪いことはしたのはそっちだろ?
だけど、僕は優しいから、慈悲くらいはくれてやるよ。
僕は手を合わせてニコリと笑う。
「さすがに僕も鬼じゃない、君たちにもチャンスは必要でしょ?」
「チャン、ス……」
「そう、この学園には争いごとにちょうどいいルールがあるじゃないか」
「――決闘か」
この学園には生徒間の争いは、ルールを決めた一対一の決闘で勝負を決める。
勝ったら負けた方の言うことを素直に聞く。
敗者は勝者に従う、シンプルでわかりやすいルール。
「ルールは四対四の団体戦、道具の持ち込みは一つまで、それぞれ一人ずつ戦って相手を戦闘不能にした方が勝ち、君らの陣営の勝った奴は無罪放免、僕らに負けたらそれ相応の罰を受けてもらう」
「それに勝てば、俺たちを本当に見逃してくれるのか!」
「嘘は言わないさ。だけど、この決闘を引き受けて負けた場合は、より重い罰になるってことをちゃんと理解してね……それで、どうする?」
四人は目線を合わせて一斉に頷く。
迷いはなく、勝つ自信しかないって目だな、バカすぎて笑えて来る。
「受けてたとう。貴様などに俺たちが負けるはずがない! 勝って俺たちが正しいと照明してやる!! 罪に問えなくなったその日が貴様の命日だと思え!!!」
「はいはい、御託はいいからさっさと済ませましょう」
かっこつけたアンドレイ王子を無視して、予め書いておいた契約書を四人に差し出す。
それを四人は一切契約内容を見ることもなくサインした。
お前ら普通契約書の内容見ないで書くか?
もし自分に不利の事が書かれてたらどうするつもりだよ。
まぁ、こっちとしてはそんな馬鹿でいてくれて助かるけどね。
お互いに四枚の契約書が手元に出現する。
契約が完了したという証だ。
僕はニコニコ、相手はもう親の仇を見るかの如く険しい表情になっている。
怖い怖い、これはそろそろ退散するとしますか。
「それじゃ二週間後にコロシアムで決闘だ。せいぜい学園最後の二週間を大事に過ごすんだな!」
僕は振り返って姉さんに手を差し出した。
「それじゃあ、行こうか姉さん」
「え、えぇ……」
姉さんの手を引いて、皆の視線を受けながら、大ホールを後にした。
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