第7話 攻略キャラ達

 人目につかない学園の裏に僕たちは着地する。

 まだまだ学園入口付近にたくさん人がいるから、入学式はまだのようだ。


「ぜぇ、はぁ……な、何とか間に合いました、わ」


「走ってない姉さんの方が何で疲れてるのさ? 送ってくれたご褒美にメルクはあとで好きなものおごってやろう、何がいい?」


「最近できたお店のチーズケーキでお願いします」


 姉さんが風圧でぼさぼさになった自分の髪を直す。

 メルクは……一切髪乱れてない。

 魔道具か何か使ったのか?


「ほら、ザニアも、髪を、ちゃ、ちゃん、と、直、す!」


 ぴょんぴょんとジャンプして僕の髪を直そうと手を伸ばすが頭まで届いてない。

 その度に姉さんの胸が大きく揺れる。


 身長伸びないのにどうしてそこだけ大きくなるんだ?


 しかも僕の体にちょくちょくあたるんだよ!?

 思春期の男子には刺激が強すぎる!!


 ジャンプをやめ、バシバシと僕の足を叩く。


「ちょっと! かがみなさい!! 届かないですわ!!!」


「はいはい、分かったよ。これでいい? 姉さ――ムグッ!?」


 かがんで視線を合わせると姉さんの手が届いたはいいけど、胸が僕の顔面を包む。

 前に抱き着かれた時よりもより女性らしい、香水のような香り……って!?

 匂い嗅ぐって、僕は変態か!?


 後頭部の寝癖直そうとしてくれてるのはありがたいけど、後ろに回ってやってくれませんかね!?


 姉さん昔から僕を弟扱いで男だってこと忘れてんだよ。

 無自覚でこういうことするから、なおたちが悪い!?


 やばい……息が、できな……、


「離れてください! 主様を殺す気ですか!?」


「ちょっと! 何するんですの!?」


「自分の胸に手を当ててよく考えてください!!」


 メルクが引きはがしてくれたおかげで何とか僕は息を吹き返した。

 あぶねぇ、前世の死んだじいちゃんが手振ってるのが見えた……、


 すっかり不機嫌になった姉さんがぺしぺしと僕の足を叩く。

 理不尽だ……


 少し離れたところで何故かメルクがショックを受けている。


「種族柄、大きくなりにくいとはいえ、こんなに差が……」


「……? どうしましたのメルクは?」


「――聞いてやるな」


 メルクの胸も決して小さいわけじゃない。

 姉さんがでかすぎるんだよ。


 ジト目でメルクは僕を見つめて、小声で耳打ちしてくる。


「……主様は、やはり大きいのが好きですか」


「僕は女性を胸で判断しない、結局人間中身だ。それに色恋は僕の夢が叶ってからだ! 最強のヒーローを生み出すまで、そんなものに構ってる余裕はない!!」


「――主様ならそうですよね。聞いたワタシがバカでした」


 呆れた表情をメルクは見せる。


 僕が恋愛や色欲に溺れて、研究をおろそかにするとでも?


 否だ! 断じて否だ!!


 僕も確かに人並みに性欲はあるが、研究したい欲に比べれば、その感情を上回る。

 最強のヒーローを生み出すその日まで、この研究欲求は止まることなどないのだから!!


「ヒーロー研究こそ! 我が人生だ!!」


「――頭大丈夫ですの?」


 姉さんにも呆れられながら、校門前に歩いていく。


 校門から中に入ると、目の前に広がるのは広大な敷地。

 学舎や学食、図書館など設備が充実している。


 さっすが二ヶ国が国営している学園だ。

 規模が段違い、ここで三年間を――、


「きゃああ王子様たちよ!!」


「素敵ぃぃぃ!!!」


 後ろの方で黄色い歓声が上がる。

 振り返ると美男子三人組が女子生徒に囲まれて歩いてきた。


 先頭にいる赤髪の少年が、ヒューリー王国第一王子【アンドレイ・ヒューリー】


 後ろに控えているのが、ロン毛の青髪少年が、ヒューリー王国騎士団長の息子、【イゴール・エピシン】


 その隣にいる、ふてぶてしい緑髪の猫獣人が、ビリー王国第二王子【ウォルター・ビリー】この三人がゲームの攻略キャラだ。


 あと攻略キャラが一人いるが、まぁそのうち会うだろ。


 絡まれないように姉さんたちと脇によけておく。

 周りに聞こえないように姉さんに小声で話す。


「あれが攻略キャラたち、で合ってるの姉さん?」


「そうですわ、そしてあの方達の行動でわたくしたちが破滅するかどうかはが決まりますわ」


 姉さんはソワソワと落ち着きがなくなる。

 昔と同じ、破滅する未来におびえる、不安な表情だ。


 だけど心配はいらない、ヒーローの平穏な生活を守ることも博士である僕の役目だ。

 姉さんのために事前に僕も手は打たせてもらったからね。


「簡単に僕たちの家が破滅何てするわけないじゃん、これでも公爵家だよ?」


「あなたがレイブン家を公爵家にまで押し上げたのが原因でしょう!? 自分の発明した魔道具の功績を全部お父様の手柄にしたおかげで、ゲームでは貧乏伯爵家だったのが今や貴族最上位の公爵家ですわよ!?」


 そう、僕の作戦は破滅エンド迎えられないほど権力を持っちゃおう作戦だ。

 破滅エンド迎える原因はいくつもあるが、その中でも特に大きな原因は。切り捨てられやすい地位にいることだ。


 だからまずは地位を上げる事を優先させた。

 破滅エンド迎えないためなら、魔道具の功績なんかいくらでもあげるよ。

 ヒーロー研究さえ出来れば僕は地位も名誉もいらないし。


 僕を養子にしてくれたレイブン家へのせめてものお礼だったんだけど……

 さすがにやりすぎたか?

 でも――、


「位が上がるのはいいことじゃないか、何が不満なの?」


「成り上がり公爵家の娘として注目されてるのが問題なんですのよ!? 破滅エンド迎えないために目立たず学園で過ごすはずが、どうしてこうなってしまいましたの!?」


 姉さんは頭を抱えてしまう。

 一気に成長した事が問題、ってことか。


 まぁ、でも姉さんが望もうが望むまいが、結局恨み買ってたと思うよ?

 だって姉さんは――、


「第一王子の許嫁の時点で静かに暮らせるわけないと思うんだけど……」


「ほん、と、ゲームでもそこだけ本当に、なんでって思いますわ!」


 許嫁の話の経緯は父さんから聞いたが、まじでシンデレラストーリー過ぎる。

 王様と父さんが学園時代の親友で、今でも交流があり、王様がうちにたまたま遊びに来ている時に姉さんの魔法適正が判明したのがきっかけだ。


 魔法の種類は全部で火、水、土、風、闇、光の六属性。

 基本的に適性は一人につき一属性、多くても三属性がこの世界の普通らしい。

 姉さんは光以外の全ての適性を持っていて、この世界でも類を見ない五属性の魔法使いだった。



 王族にこの五属性の魔法使いの血を何としてでも残したいと、王様の鶴の一声で、ゲームのバージニアは伯爵家にも関わらず、あっという間に王子の許嫁という地位を手に入れた。


 姉さん曰く、ゲームでは自分は特別だと図に乗った結果、傲慢な令嬢に成長を遂げたって言ってたっけ?


 だが、学園に入って、そんなゲームのバージニアは特別ではなくなってしまう。

 六属性の魔法使いが現れたのだ。


 それがゲーム主人公【ナタリア】である。


 平民の出でありながら、六属性の魔法を操る最強ヒロイン、否が応でも注目を集めた。


 ゲームのバージニアは自分以外が特別視されるのが許せず、ナタリアに陰湿ないじめを行う。


 その行為をナタリアに惚れた誰かが止め、ゲームのバージニアを断罪する。


 これが本来の流れらしいが、この結果になる未来があんま見えないんだよな

 姉さんは根が善人だし、むしろ逆にいじめられそうなまである。


 むしろ僕の心配事は別にある。


「僕たち以外の転生者があの中にまぎれてるってのが厄介だな」


「その方の目的によっては、わたくしたち破滅エンド一直線ですわ」


「「破滅は嫌だなぁ」」


 二人でため息をつく。


 転生者の可能性を最初に示唆したの姉さんだった。


 姉さんがレイブン家の力を使って調べたところによると、攻略キャラと主人公たちが九歳の時に突然の失踪している。

 一年足らずで戻ってきたものの、空白の一年間に何があったのかは本人たちの口から何も語られない。

 そして見たこともない魔道具を攻略キャラたちが身に着け始めたのもこの辺りからだ。


 姉さんが原作知識を頼りに魔道具を探し始めたのは十歳から、その時点でなくなってることから、時系列的には、つじつまがあう。


 誰かが事前に魔道具の場所を知っていて、姉さんより早く回収した。

 そんなことができるのは同じ転生者だけだ。


 何の目的で集めているかによっては、僕たちの破滅エンド回避の障害となり得る。

 一刻も早く誰が転生者なのか見分けなければならない。


「転生者探しは自由に動ける僕たちがやっておくよ。姉さんは普通に学園を過ごして欲しい。攻略キャラたちが同じクラスだけど、少しでも主人公たちに関わらないようにしてね?」


「……頼りきりで申し訳ありませんわ」


「任せてよ」


 話していると王子たちがいなくなったことを確認できたので、僕たちは入学式会場の大ホールまで歩いて向かう。

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