第5話 お宝部屋
前足が僕の体に当たり、ミシミシと体から嫌な音を立て、壁まで吹っ飛ばされる。
「があ゛ッ!?」
壁に激突し、床にズルズルと落ちて、倒れこむ。
何とか意識だけはあるけど、これはあばらが何本か折れてるな。
ポーチから痛み止めの薬品を取り出し、一気に飲み干す。
痛みが一気に引き、動けるまでには回復した。
回復薬持ってくればよかった。
痛み止めの薬品で何とか誤魔化してる状態だから、長くはもたない。
立ち上がって当たりを確認すると、メルクがゴーレムを上手く引き付けてくれている。
バージニアさんの方は、頭上に大きな黒い槍が出現していて、いつでも撃てる準備は整っていた。
「準備完了しましたわ!」
メルクはバージニアさんの言葉を合図に大きく壁に向かって避けた。
ようやく、バージニアさんの存在にゴーレムは気づいたがもう遅い。
「食らいなさい!! シャドーランス!!!」
黒い槍はゴーレムに向かって勢い良く放たれる。
槍は高速でで迫り、ゴーレムの胸を貫く。
あの硬さがまるでプリンでも刺しているかのようにあっさりと、深く突き刺さった。
だが……、
「嘘……まだ動けますの!?」
黒い槍は消え、胸にだけぽっかりと穴が開いている。
その中に赤く光る物が見えた。
恐らくあれが魔石だ!
魔石の位置をうまく避け、槍の攻撃を致命傷からギリギリ避けたのか。
でも見えている状態なら……、
「直接叩ける!!!」
僕はポーチから最後の氷結薬を取り出し、全力でゴーレムに投擲する。
ズキリとあばらが痛みだし、今まで抑えていた痛みが戻ってきた。
「ぐっ!?」
あまりの痛みに立っていられず、そのまま僕は地面に倒れた。
もう僕は戦えないけど、これでチェックメイトだ。
ゴーレムに氷結薬が当たった部分が凍りはじめる。
関節部分がきしみ、鈍い音を立て始めた。
完全に動きを止めることはできないが、動きを鈍らせることならできる。
そしたら後は――、
「ワタシがとどめ、ですよね!! 主様!!!」
メルクが、ゴーレムの空いた胸から入り込み、魔石をナイフに深く突き立てる。
魔石は表面ほど固くなく、ナイフの攻撃が十分に通る。
中でパキリという音がした瞬間、ゴーレムは動かなくなってしまう。
すると部屋の扉が一斉に開き、閉鎖的空間でなくなった。
それはボスを倒したという何よりの証拠だろう。
「ザニアさん大丈夫ですの!!」
「主様! ご無事ですか!!」
ボスを倒したということよりも僕を先に心配して二人が駆けよってくれた。
嬉しいような、少し気恥しい気もする。
メルクに体を支えてもらいながら、僕は起き上がる。
「体いてぇ……」
「もう少し耐えてくださいまし! 宝箱の部屋から回復薬とってきますわ!!」
走ってバージニアさんが奥の部屋に入っていった。
すると数分も経たず、バージニアさんが液体の入った瓶を持ってくる。
市販の回復薬とは色が違うな。
緑色の物が主流なのだが、これは赤茶色をしている。
「これって、遺跡の中にあった薬品ってことは腐ってるんじゃ……」
「早く飲んでくださいまし!」
「ごぼッ!?」
焦っていたせいなのか、瓶の蓋を急いで開け、すぐに僕の口に放りこまれた。
ゴクリッと一口飲んだだけで、体にすぐさま効果が表れた。
あれほど痛かった体の痛みが嘘のように消えていく。
服をめくって確認したが青あざ一つ残っていない。
すごい効き目だな……腐ってるかと少しでも疑ってほんとすまなかった。
「ありがとう、助かったよ」
「こっちこそありがとうですわ」
安堵の表情を見せるバージニアさん、メルクも無表情ではあるが安心しているように見える。
「何はともあれ、これでボス撃破だ!」
「それでは早速お宝部屋に――」
「ちょっと待って、動けるか確認するから」
メルクから拾ってもらった白衣を着なおして、体がちゃんと動くか軽く確認する。
痛み無し、よし、動けるな。
「問題ないみたいだ。それじゃ行こうか」
「そうですわね」
僕たちはお宝があるという奥の部屋に向かう。
奥の部屋の部屋に入ると、そこには金銀財宝の山。
金の延べ棒や大粒の宝石が散りばめられたアクセサリーなど、売ったら一生暮らせそうな価値の宝が多く置いてある。
その中央には台座があり、その上には丸いコンパクト、そして様々な色をした六つのウエストポーチが置かれていた。
「あれが目的の物?」
僕は台座の上にある物を指さしてバージニアさんに確認する。
「そうですわ。これがわたくし専用の魔道具ですわ」
「バージニアさん専用……興味深いな」
コンパクトを手にとって確認する。
黒一色のシンプルな作りになっていて。
コンパクトを開くと、中心には黒い魔石が埋め込まれていて怪しく光る。
こんな魔石、見たこともない……
どの魔石とも違う、触れるだけで寒気を覚える。
この異様な感じ、相当な力があるモンスターの魔石に違いない。
「見つけた……これだ、これだよ!僕が求めていた物は!!」
ヒーロー変身の魔道具として文句ない。
これを改良していけば――、
「あ、あげませんわよ」
僕の手からコンパクトを奪うようにバージニアさんが取り上げる。
別に取ったりしないのに……
僕が持ってても意味ないって自分が言ったんじゃん?
まぁでも――、
「後で改造させてね?」
「何するつもりですの!?」
バージニアさんはコンパクトを抱えて後ろに後ずさりする。
僕が何をするかって? そんなもの決まっているだろう。
「君にヒーローになってもらうつもりだけど?」
「ちょ、それどういう意味なんですの!?」
何か喚いているようだが、バージニアさんを無視して、ポーチの方をとって確認する。
見た感じ普通のポーチだけど……、
「バージニアさん、これは?」
「人の話聞きなさいな!?……全くもう、それは無限収納ポーチですわ」
「無限収納ポーチ?」
「名前の通り、どんなものでも無制限で収納できるポーチですわ」
試しに金銀財宝の山を入れてみたが、パンパンになるどころか重さを感じない。
金のコインを思い浮べて、ポーチに手を入れると、しっかり取り出せる。
非常に便利だ。
金銀財宝の山を半分ずつ黒と白の無限収納ポーチに入れる。
どっちか無くしても困るので一応、白をバージニアさんが、黒を僕がそれぞれ持つ。
この部屋の財宝を全て詰め終わったところで、僕とメルクはバージニアさんに向き直った。
「さて、一時的な協力関係はこれで終わりだけど……どうする? このまま続ける?」
「もちろんですわ!」
晴れやかな顔で即答いただきました。
小屋の時は渋っていたが、もう迷いはなさそうだ。
いや~よかったよ、断られたらどうしようかと思っていた。
「よし、なら早速契約だ」
事前に持ってきていた契約書をポーチから取り出す。
この契約書は魔道具になっていて、違反行為を絶対できないようになっている。
普通の契約書より効果は絶大だ。
「……準備がいいですね主様」
「はっはっは!」
メルクにジト目で見られるが、とりあえず笑ってごまかしておく。
拒否られても強制的に契約書に書かせてやるなんて、これっぽちも思ってなかったよ。
……ほんとだよ?
「さらさら~と、よし、バージニアさんから言われたとおりに書いたよ。契約内容はこんな感じでいいかな?」
書いた契約書を渡して確認してもらう。
「――特に問題はありませんわね」
「わたしにも見せてもらってもよろしいですか?」
メルクが契約書をバージニアさんから受け取って確認する。
疑い深いなぁ……
ちゃんと提示されたこと意外書いてないってば。
「問題はないようですね」
メルクからの許可も降りたので、バージニアさんがしっかりとサインする。
最後にこれに魔力を流し込む。
契約書が光り輝き、二枚の契約書に増える。
一枚は僕に、もう一枚はバージニアさんの手渡す。
「それじゃ、これからも頼むよ、バージ――姉さん」
僕は口元を抑える。
バージニアさんと言おうとした瞬間、姉さんに修正された。
ちゃんと契約書の強制の効果は機能しているようだ。
いきなり姉さん呼びをして、困惑していないだろうかと恐る恐るバージニアさんを見ると不快な顔などではなく、間違いなく今日一番の笑顔になっていた。
――何故?
「えぇ! そうですわ!! わたくしがお姉さんですわ!!!」
姉と呼ばれてよっぽど嬉しかったのか、僕に抱き着いてくる。
ふわりと女の子独特の甘い香りがした。
優しく抱き止めるが、少しでも力を入れたら折れてしまいそうで怖い……
そんな僕の苦労もバージニアさんはお構いなしのようだ。
「前世でもずっと一人っ子でしたから、弟が欲しいと思ってましたの! もっと甘えてもいいんですのよ!!」
「嬉しいのは分かりましたから、はな、れて、くだ、さい!!」
メルクが無理矢理、姉さんを引きはがそうとする。
負けじとバージニアさんも僕を離さないままメルクと死闘を繰り広げていた。
僕は完全に蚊帳の外だ。
バージニアさんの距離の詰め方の落差激しいな。
小屋では僕が近づいただけで赤らめてたのに、弟になった瞬間これだよ。
赤の他人から弟になっただけで、こんなにも変わるものなの?
でもバージニアさんが姉さん……か。
この人、どちらかと言うと姉というよりは妹の方がしっくりくるけど、それは言わないでおこう。
こうして、僕は【ザニア・バイパー】から【ザニア・レイブン】となり、レイブン家の一員となったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます