第2話 美しい少女、奴隷を手に入れる

 拝啓、自分へ。……拝啓はいらんな。

 コホン……どうやら私は気付かぬうちに奴隷なるモノを手に入れたようです。

 正直、奴隷物は好きだし、女の子もべらぼうに好みなので天からの贈り物かと思います。

 しかし、重要な点は1つあります。

 私が魔女と誤解されていることです。


 目の前でキラキラと目を輝かせている少女は、私を魔女と疑わない様子。

 それほどまでに魔女と酷似しているのだろうか?

 とりあえず、女の子に嘘はつきたくない。

 たとえ嫌われようとも、私は女の子には紳士でいたいのだ!


「えっと、ごめんなさい。私は貴方の知る魔女ではないの。ただの通りすがりの一般人よ」


 お得意のお姉さんヴォイス。

 大人っぽい声色は美しい私にベストマッチ。

 しかし、先の件でこの世界では私の美しさは通用しない可能性があることがわかったので、少し傷心気味。


「そう……でしたか。なら、私は貴方の奴隷になります」


 んん!?

 予想外も予想外な展開に困惑する。

 この子は魔女の奴隷ではないのか?

 少しこの子のことが不気味に思えてきた。


「え、嫌です」


 思わず、拒絶反応が出てしまった。

 目的のわからない目の前の少女に、流石の私でも許容しきれない。


「そもそも、私は君の名前を知らないの。見ず知らずの人について行ってはいけないって教わったでしょ?」


 まあ人に言えたギリはないがね。

 思い出す数々の名前の知らない女の子達。


「それもそうですね」


 それを素直に受け止め、女の子は座ったまま会釈をする。


「申し遅れました。わたしはリーゼと言います。魔女の奴隷になるべく、この不可侵領域の森に入ったことをお許しください」


 1つ1つの仕草が丁寧で、どこかのお姫様と言われたら納得してしまいそうなほど美しかった。

 でも、そんなのは2の次、彼女の発言には気になった部分があった。


「奴隷になるべくってどう言う意味?」


 お姉さんボイスすら忘れて、その疑問を口にする。

 普通の人は進んで奴隷になりたいだなんて思うはずがないだろう。

 ましてや魔女の……何されるかわかったもんじゃない。

 人体実験とか?もしかしたら未知の薬の素材にされるかも?


 人の心配をよそに、少女は顔を上げ、ルビーのような赤い瞳が私を捉える。


「わたしの髪と目を見ればわかると思いますが普通の人とは違います」

「ああ、うん。それはわかるよ」

「……不気味ですよね……そのせいで、わたしは村でイジメられていたんです」

「めっちゃ可愛いから嫉妬したんじゃない?」

「そう……え?可愛いですか?」

「あ、うん」


 普通の日本人には白髪に赤眼なんて、美しいの一言か可愛いの一言しか出てこないだろう。

 自分の性癖ドストライクってのもあるけど。ここ重要。


「その……気持ち悪くないですか?」

「全然」

「ほら目だって血のように真っ赤だし」

「ルビーのように綺麗だと思うけど」


 今回は口説いてるわけじゃない。純粋な感想を述べているだけ。

 なのに自分の素行のせいで言葉の一言一言がナンパの声かけみたいに感じる。

 やっぱり、そろそろ自重したほうが良いかな?


「コ、コホン……話がそれましたね」

「照れれて可愛い」

「……」

「……話の腰を折ってごめん」


 だから、そんな目で見ないで。いつもの癖が出てしもうたんだ。

 可愛いと言う事実が目の前にあると無視できない性分なんでね。

 自分も咳払いをして、今度こそ、身を引き締めて彼女の話を聞く。


「……要は、今の日常が嫌になったので、魔女の奴隷になろうって思いました。以上!」

「あ、無理やり終わらせた」


 でも、言いたいことはある程度伝わった。

 簡潔に言うとアレだ。家出みたいなものだ。

 そう考えるとヤバいな。

 こんな可愛い子が見ず知らずの男に攫われてしまうかもしれない!

 いや、この場合は見ず知らずの魔女か。

 さっきの自分の件のこともあるし、このまま手放すのは心配だ。


「リーゼちゃん!」

「ひ、ひゃい!」


 少女の手を握る。


「例え、どんな嫌なことがあっても、命は大切にしなきゃダメ!」

「ち、近いです」


 村での出来事を思い出す。1人の少年が放った言葉。

 『お母さんを返せ』

 これが何を意味しているかは嫌でもわかる。

 大事な人を奪われる気持ちは、まだ経験してないが想像を絶するだろう。

 だから、今目の前の少女を放っておくことは出来ない。


「私は絶対にリーゼちゃんを拒絶しないし、仲良くだってなりたい!」

「は、はい」

「だからね!私とセフ…ゴホ…友達になって欲しいの!」

「何か別のこと言ってませんでした!?」


 つい本音が。


「そもそも、わたしは命を捨てようだなんて考えていません。ただ、自分の人生を変えようと思ってただけです」

「え?それで奴隷なの?」

「はい」


 どうやら私の常識はこの世界に通じないことが確定した瞬間だった。

 奴隷になれば、今より過酷な人生になる可能性もあるのに、何故進んでなろうとするのか。

 でも、この子の頭の中がアレなだけかもしれないし、それとも……いや、そんなことはないか。

 暗く沈んだ顔をしている。


「……不安って感じだね」

「そんなことは……いえ、やっぱり怖いです」

「だよね。だから、一般人である私の奴隷になろうって思ったわけか」

「あ、いえ、同じ被害者だから、優しく接してくれるって思っただけです」

「……意外と言うね」


 そして、何故バレた。

 やっぱり、この髪の色が原因ぽいな。


「なら友達で良いんじゃない?」

「……友達じゃダメなんです」

「どうして?」

「友達って肩書きが既に軽薄すぎません?」

「何を言ってるの?」

「だから、奴隷って言う主従関係になれば、お互いに信じ合えると思いませんか?」

「ごめん。私の持っている辞書とは違うみたいだ」


 やっぱりこの子の頭の中はアレなのかもしれない。

 いや正確には価値観と言うべきかな?

 少なくても、私は友達を軽薄な存在だとは思わない。

 まあ手は出すけど、それは1つの愛情表現だからセーフ。


「ですのでどうか!わたしを奴隷にしてください!」

「ええー」


 そう言えば、ウチに家政婦はいたけど奴隷はいなかったな。

 この際だから手に入れよう(棒)。

 ……いないのが当たり前の世界なんだけどね。


 とにかく、私は分岐点に立たされている。

 ここで彼女を奴隷にするか、友達から始めるように説得するか、見放すか。

 今の考えは友達>奴隷>見放すって感じだ。

 ギャルゲーをやっている気分だぜ。


「うーん」

「何でもします。働けと言えば働くし、内臓を売れと言えば売りますので、どうか」


 ん?今何でもって……いやいや、違う違う!そこじゃない!

 彼女の覚悟には色々と不安が残る。

 人生を変えたいと言っているのに、その実は自分を殺したいだけに思えてきた。


 ここで見放すのは簡単だ。

 しかし、それは後味の悪い結果が目に見えている。

 故に、道は1つしか残されていなかった。


「……はぁー、わかったよ。貴方を奴隷として迎えます」

「…!?本当ですか!?ありがとうございます!」


 地面に頭を擦り付けるように深々と下げ、土下座のような格好になる。

 その姿を見ていると、ちょっと誇らしい気持ちと多大なる罪悪感が心を蝕む。


 別に奴隷にしたからって悪いことをするわけじゃないけど、少し不名誉だよね。

 若干15歳にして、奴隷を購入!みたいな。買ってはいないけど。

 ここが日本なら間違いなくニュースになる。


「……まいっか、ここ日本じゃねーし」

「ん?どうしたんですか?」

「何でもないよ。あ、そうそう私の奴隷になったからには、いくつかルールを設けようと思うの」

「え、あ、はい」


 露骨に嫌そうな顔をされた。これじゃあ奴隷失格かな。

 でも、注意することはなく、そのまま続けて話をする。


「まず1つ。自分の身は大切にしなさい。2つめ。私の命令は絶対。3つめ。私の身の回りのお世話をすること。以上!」

「えっと、それだけですか?」

「これを奴隷3箇条と呼ぶことにします。ちなみに随時追加していきます」


 まあ期待させなんだが、私には奴隷を持つって神経がまだわからない。

 自分の意のままに人を操れるって考えれば、やりたいこと……ヤリたいことの1つ2つ思いつくけど、そこまでは求めてはいない。


「奴隷3箇条……わかりました。わたしリーゼは我が主人のために御身を捧げます」

「命は大切にしてね!」


 そのための3箇条であり、1番最初に命大事にを置いたわけだ。


「それで奴隷の契約ってどうやるの?口約束で大丈夫なの?」

「あ、こちらに書類があります」


 そう言って、ポケットの中から1枚の紙と羽を取り出した。


「……準備万端だね」


 まあ魔女の奴隷になろうとここに来たわけだから、それぐらいの準備はしてくるか。

 だが羽って……いつの時代だよ。ポケットの中墨だらけになりそう。


 しかしアレだな……何が書いてあるか全然わからないな。

 リーゼちゃんから渡された書類に目を通して思う。

 初めて見る異世界の文字。アルファベットに近い形状しているが、どうなっているのだろうか?

 単語か?ローマ字か?それに文法は?

 しけし内容はどうでアレ、署名欄のところはわかるから問題はないか。


「ここに名前を書けば良いの?」

「はい、そこです」


 とりあえず名前を書こうとするが、日本語で大丈夫かな?

 リーゼちゃんに書かせるか?

 いや、なんか主人としてカッコ悪いところは見せたくないな。

 仕方なし。普通に書くか。


「見たことない文字ですね」

「海外出身だったからね」

「でも確か、この世界の文字は共通だって」

「リーゼちゃん、自分の知識が全てだと思わない方が良いよ」


 実は異世界から来たんですーなんて言えば、頭沸いてる人と思われるだろう。

 まあいつか書けるようにするか。


 そんなこんなで私の異世界生活は奴隷を1人を手に入れたところから始まった。

 幸先良いのか悪いのかよくわからないけど、せっかくの異世界だ。

 この世界でも女の子を侍らせてみせる。

 エルフとかエルフとかエルフとかね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る