隣の空き部屋 4

「ノウマクサンマンダ、バザラダン、センダマカロシアダ、ソワタヤウンタラタ、カンマン」


 これは不動明王の真言です。幼い頃、何かあったら唱えなさいと教わり、今でも覚えています。頭上にいる何かいけないものが、自分を見詰めている。その何かを追い払うべく、心の中で繰り返し唱えました。悪霊の場合、隙を見せると心身を支配される可能性があります。悪いものを感じたら、まずは心を強く持つ必要があります。


「出て行け! 出て行け!」


 不動明王の助けを借りながら、心の中で何度も叫びました。真言も十回以上唱えたでしょうか。微かにうめき声のようなものが出せるようになりました。


「んあぁッ! 出て行け! 帰れ! 二度と来るな!」


 初めは掠れた声を絞り出すように。二言目にようやく大きな声が出るようになり、そこにいるであろう何かを一喝しました。するとフッと体が自由になり、声だけではなく、目が開き体も動くようになりました。跳ね起きて電気を点けました。煌々と照らす蛍光灯の光のみで、部屋の中には何もいませんでした。

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