第4話 構造

 

 「夢を実現する」のではなくて、「見たい夢を現実に見る」…そういう内向的なベクトルの技術が、なぜかイプシロン氏には現代人に必要なものである、と思えたのだ。本当に夢を実現できる幸福な人物というのは限られたセレブだけで、大多数のその他大勢の人々は、「夢の実現」という「夢」を中途半端に与えられているだけで、その夢を錯覚とか妄想で実現するとか、VRや疑似的な意識変容空間でしか代理満足できない。今はそういう時代だ。しかし、幸福であるという幻想を与え続けなければいずれ誰も働かなくなって、厭世観にとらわれて、体制が瓦解しかねない…権力者階級には潜在的なそういう恐怖感があって当然なのだ。

 アスク氏が「思い通りに甘美に陶酔できる理想的な夢の世界」を、その他大勢の人々に、安楽死させようとするかのごとくに提供しようという、そういう観念に取りつかれたのは、一種の精神的な安全装置というか、罪悪感や恐怖感の表れだったのかもしれない。

 が、ともかくそれが一つの文字通りに「夢のような」計画であるのは間違いがなかった。

 物事は複雑でアンビバレントで、それゆえにこそ人間らしいともいえる。

 こうして「ドリームシアター計画」~誰言うともなくこう呼ばれ始めたプロジェクト~はいよいよその全容を世界中にあらわしたのだ!


<続く>

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