第4話 大江遠

「いいか、双葉、獲物は必ず一発で仕留めるんだ。人生と同じでやり直しはできんのだ」


私と祖父は森の中のくぼみに身を隠して、60メートルほど先にいる雄鹿にライフルで狙いをつけている。


ここは東北地方にある祖父の所有地の山の中で、私たちはもう何時間もこのままの姿勢でいる。


中学生である私がライフルを持つのは当然法律違反なのだが。何事にも例外がある。

祖父の意思がここでは法律なのだ。


「今だ、撃て」


祖父の言葉に私はトリガーに指をかける。


だが、スコープ越しに見たその生き物の神々しさに私は一瞬躊躇した。


「バカもん、早く撃たんか」


祖父の声に慌てて引き金を引いたが、弾は外れ、鹿は森の中に消えていった。


祖父は立ち上がり、ライフルを取り上げると、私の頬を叩いた。


「この役立たずめ。そんなことではお前の父親と同じで、ワシの後を継ぐことはできんぞ」


不愉快そうに立ち上がり、歩きだした祖父の後をとぼとぼと歩きながら、心の中では怒りの炎が渦巻いていた。


私はこの男が嫌いだ。


いや憎んでいるいるといっていい。


なぜならこの男、大江遠は、私の父であり自分の息子である大江剛を死においやったからだ。







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