3. 苦くて、優しくて
「……落ち着いたか。」
「はい。ごめんなさい。ありがとうございます。……天海先生。」
「なんだ。」
「美味しいです。」
「そうか。」
「……正直、断られるだろうって分かってました。でも、言わずにはいられなくて。」
天海先生は目を逸らさずに私の話を聞いている。
「まあ、なんだ。その。」
天海先生が話し始めると、持っているコーヒーのマグカップに目線が移って、マグカップを手でくるくるといじり始めた。
「私はお前のスールとやらにも、彼女にもなれん。そこは分かってくれ。」
「……はい。」
「しかし、だ。お前にもうここに来るなとも言うつもりも無い。」
「え。」
「出来ないのは、私がお前のスールだとか恋人だとかになるということだ。それ以外なら構わん。」
「……また、ここで過ごしていいんですか。」
「ああ。学年は違えど私はお前の先生だ。先生が生徒とそういう関係になるわけにはいかん。だかな……。」
天海先生が持つマグカップが波打っていくと思ったら、フンと咳払いが響いた。
「お前とここで過ごして、お前とコーヒーを飲むのは私も気に入っている。それにどうせお前はここでしか落ち着けないのだろう。ここから追い出してお前の成績が下がったら私も気分が悪い。」
あれこれ言ってるけど、天海先生が受け入れられないのは、私と特別な関係になることだけでその理由は、私が生徒だから。
でもそれ以外は……少なくとも、私がこの準備室にいることや、私と一緒にいること自体は、天海先生も良く思ってくれてるみたい。それだけで、救いだ。
「天海先生。告白を受けていただけなかったのは残念ですけれど……。またここにいていいんですよね!」
告白玉砕による転落から少し引き上げられて、私は天海先生の机に手をついて前にのめっていく。
「そうだ。……元気にはなったが落ち着いてはいないようだな?」
「落ち着いていられますかー! もう天海先生に顔を合わせられないとか思ったんですよ!? もしそうだったら私……うわーん!」
「藪蛇だったか……。」
結局、私が落ち着いたのは日も暮れたころだった。
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