第57話 グリムリーパー
「…………」
「…………」
『そうでしょう? 幽鎧帝グリムリーバー』
私の言葉によって、私とグリムの間に沈黙は走る。
「否定はしないのかしら?」
「……アオイに下手な事言うのは悪手」
「そう。じゃあ、勝手に貴女を幽鎧帝と言った理由を語らせてもらうわ」
魔導銃を向け、いつでも発砲できるようにした状態で、私は話す。
「貴女はさっき、奥に行くときはこの空間は発生していなかったと言った。それはもう、自白に近い」
「……」
「この迷宮は、侵入者を閉じ込めるためのもの。そして、魔王か、幽鎧帝にしか操作できない。では貴女は何故、この空間に『侵入者として認識されなかった』のかしら?」
「……理由はそれだけ?」
それだけだと私を幽鎧帝とする理由にはならない、グリムの目はそう語っていた。
それはそうだろう。
「言いたいことはわかるわ。貴女が何かの理由で、この迷宮の管理者に泳がされたという可能性もある。付け加えるなら、あの子が既に見逃されているという前例があるから、よりその可能性は高くなるでしょうね」
そう、話を聞く限りあの子は既に奥に向かっている。
それなのにこの迷宮が破壊されずに残っているということは、あの子も『侵入者として認識されなかった』ということだ。
魔王の力を持つあの子は絶対に侵入者として絶対に認識されない、という可能性もあるが、確率的にこの迷宮の管理者がなにかの目的で素通りさせた考えるべきだろう。
「……そこの隠し階段、随分と完璧な造りだと思わない?」
グリムから目線を外さず、私は話を続ける。
「リビングなんて目立つ場所に造っているのに偽装は完璧、探査魔法対策の多重構造、もちろん脱出通路にも繋がっている。あそこまで完璧な隠し階段は、王家を除けばルーゼンシュタイン家だけでしょうね」
そう、あの階段は遠くから見ても完璧だ。
この世界では、最高のものだろう。
「でもね、逃げるんだったら、強固な扉で守れられた部屋を作って、その部屋が脱出通路に繋がっている方がよくないかしら?」
……そう、『この世界』では。
「ルーゼンシュタイン家は、それぞれの階に誰もが逃げ込める部屋を作っているわ。脱出通路に繋がっているだけでなく、上級魔法の直撃を受けても壊れず、立て籠もりも可能な部屋。私がとある国で学んだ『シェルター』というものをね」
その言葉を聞き、グリムの顔が曇る。
「ここまで言えばわかるわよね。ルーゼンシュタイン家に隠し階段なんて必要のないものはない。それなのに、私が適当に指定した場所に、考えたギミック通りのものがそこにある。それはつまり、『私の隠し階段の話を聞いた』誰かが、今この場で『作った』ということ」
そう、重階段があった、なかった、よりも、ないものが突然現れたというのが重要なのだ。
「……私の隠し階段の話を聞いたのは貴女だけ。そして、迷宮内を自由に作ることができるのは、この迷宮の管理者だけ。これで、答えは見えてくるでしょう?」
私の言葉を聞いた瞬間に、私の必殺の間合いから抜け出そうと後ろへと飛ぶグリム。
そして同時に、私も限界まで魔力を込めていた魔導銃の引き金を引く。
「……ぐっ! う、ぐぅぅ……!」
1発、2発と、大量の銃撃を受けたグリムは苦痛のあまり声を出す。
それは当然だろう。
今回の射撃はいつもの魔力を撃つだけでなく、専用の魔石弾丸を使っている。
いつもの魔力を弾とするタイプの数倍以上の弾速、破壊力を12発まで撃てる。
魔力が尽きない限り無限に撃てる通常の弾丸と違い、弾数の制限とリロードが必要という弱点はあるが、瞬間火力は4倍以上出ている。
この攻撃を全弾受けたら、おそらくだが、ロナードだろうと倒せるだろう。
「……」
だが、グリムはなんとか持ちこたえ、膝をつきながらも意識を保っていた。
「追撃の準備もしておくべきだったわね」
「……嘘つき」
グリムが紅い光線……放つ吸血鬼固有魔法のブラッディレイを私の足元に放つ。
その瞬間、射撃と同時に仕掛けておいた魔法のトラップ、いわゆる地雷が爆発する。
「あら、気づいていたのね」
「……被弾覚悟で飛び込んでたら、その追撃の爆発でやられてた」
グリムは睨みつけながら、爆発前に転移魔法でグリムの後ろに転移していた私に話しかけてくる。
「それで、どうするの? 降伏するつもりなら話は聞くわ」
魔石弾丸のマガジンを交換しながら、グリムに話す。
「一応、言っておくわね。貴女が死ねばここの迷宮が消え、私たちを何度も翻弄してきた相手もいなくなる。私にとってメリットしかない。つまり……」
そしてまた銃を向けながら、私はグリムを睨みつける。
「……貴女を殺すことに迷いはないわ」
目に殺意を宿しながら。
「……」
「……そう。残念だけど、さようなら」
投降の意思はないグリムの目を見て、私は引き金を引く。
「……っ!?」
だが、引き金を引く前に私は後ろへと飛ぶ。
凄まじい風切り音とともに、殺意の塊が私に迫ってきたからだ。
魔法で障壁を張る、もしくはマジックアローで迎撃しつつ、何発かグリムに叩き込むという選択肢もあったが、とにかく回避に徹するという判断は間違っていなかった。
「……なるほど。スコールの報告に、グリムとあの子が戦った校庭に、吸血鬼の固有魔法以外のものと思われる攻撃で、校庭の地面が大きく抉れたとあったけど、こういうことだったのね」
目の前の床が完全に抉れている。
爆発で破壊ではない、あまりにも強力な一撃で『もっていかれた』のだ。
そして私は、この攻撃を放った相手に話しかける。
「改めて挨拶させてもらうわ。私はレムリア・ルーゼンシュタイン。貴方の成そうとする魔王復活を真っ向から否定する者よ。……幽鎧帝さん」
グリムの後ろに出現した、巨大な鎧騎士に。
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