小林玲奈と悩み事

 私──小林玲奈こばやしれいなは“霊”と関わることのできる人間である。ある時から視える・聴こえる・祓えるの三拍子を手に入れてしまった。そのせいで私は大きな悩みを抱えている。

 隣室に住んでいる彼女がいつも幽霊と話している。彼女と霊がどういう関係かはわからない。

 けれど霊とどんな関係であるとしてもずっと話していては精神に問題が起こりかねない。

 私は彼女を霊から守りたいのだ。おせっかいかもしれないけれど、それでも彼女のことを放っておけないのだ。だって私は彼女が大好きだから。

 今日こそ隣室の人間、姫川彩花を霊から救うのだ!


 今日も姫川さんは謎の霊と話している。

 彼女が心配なのでさっさと祓いたいが、その前に一応、霊が彼女とどういう関係なのかを調べる必要がある。

 私は目を凝らして、その霊を詳しく視た。

 服装はスカートとシャツ。年はおそらく大学生くらい、というのが前回わかっていたこと。見た目に変化はない。

 今度は聴いてみることにした。

『えー、朝弱いって言ってるのに止めないあなたが悪いでしょ。責任持って起こしに来なさい、可愛い妹ちゃん』

 割とだらしない性格の姉といったところだ。

 昨日も同じような会話があったので本当に姉なのだろう。

 ただの仲の良い姉妹。にしては少し距離が近い気もするが。

 これは多分祓って大丈夫だろう。だが一つ問題がある。

 霊に触れられないのだ。

 霊に触れて念じれば祓えるのだが、触れようとすれば綺麗に避けられるのだ。

 霊はたいてい知性が低くなっている。だがこの霊はかなり知性が残っているらしく、全然触れさせてくれないのだ。

 今日も手を伸ばすも、さっと移動してしまう。

「どうしたものかなー」

 いっそ姫川さんに話すべきか。きっと彼女は祓うことを嫌がるだろうな。それでも彼女のためなら言うべきか。

 そもそもどうやって話しかけるのか。

 いきなりあなたに霊がついていて祓いたいと言おうものなら引かれるのは確定だ。友達になる? いっそ告白するか?

 自習時間に色々考えたものの結局結論は出ない。明日の自分が上手くやると期待して勉強を始めた。

 成績上位を保たなければ──特待生で居続けなければ私はこの学校に入れなくなってしまう。

 そうすれば彼女の霊を祓うどころか、彼女への恋心までボロボロに引き裂かれてしまう。それはなんとしてでも防がなければならない事態だ。

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