第6話 いつの間にか目の前に居た03。
母さんはトドメと言いたいのだろう。華乃のくるホームパーティに彼女も呼んだ。
彼女は準備から参加をして、楽しそうに母さんを手伝って華乃とも仲良く話をする。
聞くべきではないが、華乃と居てどうだったかを聞いたら「別に?航のお母さんと私は仲良くさせて貰ってるからアウェー感とか無かったし、航のお母さんが怒る理由とかわかるよ。確かにお土産なんかは高価なもので、航のお父さんがあんなに嬉しそうにしてたら悪く言えないけど、やっぱり大変だもん。私はあんまり役に立てていなかったけど、それでも「助かっちゃった。ありがとう月子ちゃん」って言葉が嘘じゃないのはわかるよ」と言われた。
なんというかもうノックアウトも同然で、俺は今まで以上に真剣交際をして就職と同時にプロポーズをして結婚をした。
そして息子を授かってからは母さんの言葉の意味がよくわかった。
華乃の一家は少し図々しい。
父さんは華乃一家と会えて飲める事を喜ぶが、やはりお客様お客様してるし、育児中の妻が動いていても気にしない。
時折息子の面倒を見ようとしてくれるが、それは子供の相手をしたいだけで俺たちの為ではない。
そして妻の前で俺に「華乃は嫌だった?」とか聞くし、「華乃にも自覚を持たせたいのよね」なんて言って、息子を貸してくれなんてとんでもない事を言う。
父さんはニコニコ笑顔で楽しそうにしているが、母さんは愛想笑いの笑顔の下は見れたものではない。
妻だけは「いやぁ、私からしたら華乃ちゃんは仕事をバリバリしてて凄いですよ」と言って、未だ独身の華乃を肯定しておばさんを上手く転がしている。
俺は参加しなくてもいいと思うが、妻は「お義母さんが疲れちゃうから参加だよ。私もお義母さんと用意するの楽しいからいいの」と言って仲睦まじく準備をして、終わった後で「お義母さん!疲れましたね!」と声をかけて、生返事の母さんに「疲れた時は疲れたって言って自分を労いましょうよ!」とやって2人して「疲れたー!」「本当ね」と言ってから、「月子ちゃん、ありがとう。お疲れ様」、「お義母さんこそ、あんまり役に立てなくてごめんなさい。お疲れ様でした」とやって笑ってくれる。
華乃は俺に連絡はくれるがホームパーティにはあまり来なくなった。
それは引越しをしておひとり様を満喫していて、来ると「結婚は?」となるくらいなら1人で遊び歩く方が気楽なのだろう。
まあ会えば昔の余韻を残したような関係で、「お疲れ」「お疲れ様」「食べなよ」「ありがとう」みたいな会話はある。
だが今1番厳しいのは華乃から入るメッセージだ。
二十歳ごろのあの感じを、干支が一周したのに引き摺られても困る。
先日は筋肉探偵五里裏凱のイベントに行ったとイベント会場の写真が届き、併設されたカフェで限定20食の豪華プレートを食べてきたと言って豪華な写真が届く。
「絶対気にいるから行くべきだよ!」
そう書かれていたが返事に困った。
入場料以外でも往復のお金と時間があれば、子供と遊んで家族でランチも食べられる。無理に使わなければ子供が着る服にもなるし妻にも何かを買ってあげられる。
華乃にはその概念がない。
前に休みは何してるのかと聞かれて、家の事と育児と言ったら驚かれて「1日くらい奥さんに任せてどこか遊びにいけば?」と言われた時、もう話にならないと思って返信しにくくて頭を悩ませた。
付き合いがあるからメッセージがくれば読むし、返事も書くが今ではだいぶ緩慢だ。
おばさんがホームパーティーで華乃が結婚しない事を冗談めかして、俺が良かったのかもと言われてリアクションに困ったが、だとしたら何処が分岐点だったのか。
なんとなくあの高一の冬の日だろう。
あの日の前に華乃に俺への気持ちがあって告白をされていたら付き合っていたのかも知れない。
母さんは反対できずに嫌だったと思う。だがあの日を迎えなければ俺は母さんの気持ちに気付かないで、あの夏の日に2人で風呂に入って湯船の中で水遊びをして笑い合った感覚で恋人同士として肌を重ねて子供を授かる。そうなっていたらおじさんやおばさん、父さんは歓迎していただろう。
ふと風呂場でそんな事を思い、1人で「ないな」と呟く。
明日は息子が彼女をウチまで連れてくる。
妻はホームパーティの準備をしている。
この幸せで十分だと思った。
いや、この幸せが一番だと思った。
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