第5話 いつの間にか目の前に居た02。
母さんの怖い顔の理由はすぐにわかった。
帰って風呂に入って眠ろうとした時に、リビングから母さんの怒号が聞こえてきた。
父さんと喧嘩をしているのだろう。
父さんは「航はそんな子じゃないだろ?華乃ちゃんをキチンと家族として見ていて、異性として見ていない」と言ったが、母さんは受け入れられずに爆発をしていた。
母さんの言う事もわかる。
昔から集まるのはウチで、母さんはその為に掃除をして買い出しをして料理を作る。
そして片付けをして日常に帰る。
確かに華乃のおばさんはお土産を持ってきたり皿洗いを手伝ったりするが、手伝うだけでメインではない。
負担は全部母さんに行く。
そして母さんはやはりあの夏の日の事を引きずっていた。
父さんと華乃のおじさんは友達同士で仲良しで、父さんと華乃のおばさんも仲が良くなった。
その為にあの夏の日に3対1になった事が面白くなかった事、将来俺が華乃を特別視して結婚するのは嫌だと言っていた。
母さんの自己中心的な考えだけではないのは、「航に選択肢を与えてよ!今のままなら華乃ちゃんとしか結婚しない風に見えるの!今日の事だって華乃ちゃんが航を断りの言い訳に彼氏って誤解させていたから起きた事で、そのせいで航が責任を感じて彼女も作らずに華乃ちゃんを選ぶのは嫌!」と俺の事を考えてくれていた事からわかった。
あとわかったのは、母さんは華乃を娘のように扱っているが、娘でもなければ俺のお嫁さんではない事だった。
父さんは「誰もそんな風に思ってないよ」と言って話を終わらせた。
そして母さんも言い過ぎたと思ったのか、言って満足したのか、翌日からいつもの母さんで次も華乃一家を明るく迎え入れていた。
だがきっと何かしらあったのだろう。
健康診断の結果が良くないなんて言いながら、華乃一家と会うのが年2回くらいになった。
俺は大学生になってから彼女が出来た。
一つ年上の彼女だったが一度専門学校に入ってからやはり大学に行きたいと勉強をして大学に来たので同学年になる。
俺は父さんから言われた華乃と比べないを意識してギクシャクしてしまい、彼女に心配されて話す事にした。
全部を話してから「月子さんごめんね」と謝ると、彼女はカラカラと気持ちよく笑って「そんなの気にしてたの?航は真面目だなぁ」と返してくる。
彼女は「そんなの仕方ないじゃん。私だって航をお兄ちゃんと比べちゃってるよ」と言う。俺は比べられていると思わなかったので「え?そうなの?」と驚く。そんな俺に抱きついてきた彼女は耳元で、「お兄ちゃんより優しい」、「お兄ちゃんより素敵」と囁いてきて、俺は真っ赤になると「お兄ちゃんより純情かな?」と言ってまた笑った。
そして「私はその華乃さんと比べてどう?」と聞かれて、「え?比べるの?」と聞き返すと「そうだよー」と言われた。
改めて比べたが「月子さんは少食で、でも食べ方は綺麗」くらいしか言えなくて、かえって「もっとキチンと比べてよね」と言われてしまった。
母さんは俺に彼女が出来た事がとにかく嬉しくて、あれこれ聞いてきてウルトラウザい。
だが父さんもいる時に「前に父さんに言われた華乃と比べないかの話をしたら、もっと比べていいところを探せって言われた」と言うと、父さんも母さんもそれだけで彼女を気に入って是非会いたいと言われてしまった。
彼女も大喜びで「行くよ!槍が降っても行くからね!電車が止まったら自転車漕いで行くからね!」と言ってくれて、本当に電車が止まって自転車で来て驚いた。
母さんは華乃達がくる時と同じ、ホームパーティーの様相で彼女を待っていて、「はじめまして!」と元気よく挨拶をした彼女はホームパーティーに感激してこういうのに憧れていたと言って喜んでいて、母さんは可愛がった先で「なんで航なんかと?」と聞いていた。
「航さんは優しいんですよ。とにかく優しいし、エロくないのに女の子慣れしてて安心感が違うんです」
これで父さんまで陥落してしまい「また来てくれるね?」なんて聞いていた。
彼女は「今度は準備から来たいです!」と言って、片付けを手伝って遅くなる前に自転車を爆走させて帰って行った。
華乃と比べればだが、女の子らしいのは華乃で、マナーがしっかりしているのが彼女だった。だが彼女は爆弾のような性格で、明るい時はとにかく明るいが怒ると手が付けられないし怒るまでのピークが早い。
普段は大らかに笑って許してくれるのに、怒らせると天変地異のように怒る。
その時ばかりは「華乃は「ムカつく」で済むのにな」と比べてしまった。
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