第4話 いつの間にか目の前に居た01。

いつの間にか目の前に居た。

気がつくと目の前に居た。

夏にはビニールプールに入った。

誕生日も祝いあった。


子供の頃、少し離れた所から頻繁に遊びに来る華乃一家が家族ではないと知って驚き、同い年なのに華乃の方が先に小学校に入ると知って驚いた。


毎月どこかの土曜日に家族3人で昼頃に来て6人でホームパーティーをする。

お土産を持ってきてくれるおじさんとおばさん。それはご馳走やデザート、華乃と遊ぶためのブロックだったり様々だった。


楽しいし、自由がそこにあるし、華乃が来ると1日が輝いていたから俺は嬉しくて土曜日が好きだった。


小学校高学年になって、夏に外で遊んで2人で汗だくになって風呂に入る話になった時、父さんもおじさんおばさんも難色を示さなかったが、母さんだけは難色を示し不服な顔をした。


「子供と言ってももう高学年よ」と母さんが言ったが、おばさんは「航くんを信じてるし。何もないわよ」と言っていたし、風呂場からは華乃の「航ー、まだー?」という声が聞こえてきてサッサと入りに行った。


まあ確かに女の子と風呂に入るなんて学校で聞かれたらウルトラ面倒くさい。

だから母さんは嫌がったのかも知れない。


中学になったらスマホを買ってもらえた。

そこに関しては華乃の存在が大きい。

「塾帰りが遅いから連絡もらわないと心配で…」と言うおばさんの言葉で母さんがスマホを買ってくれた。

メッセージアプリを入れて華乃とメッセージを送り合う。


華乃は付き合いの長さでポンと言えばポンと返ってくるので話がしやすい。

漫画の新刊を見かけたりすると教えてくれる辺りは感謝しかない。お礼はコンビニで見かけた新商品の情報にしている。


そんな華乃から、一年の夏休みに告白されて相手の男が勝手に俺を彼氏だと思い込んで、彼氏がいるならと諦める流れになったので便乗したと言っていた。


好きにして貰って良かった。

別に接点が無いから何を言われても困らない。わざわざこっちまで俺を見に来る物好きもいないだろうから好きにして貰った。


冬になって部活の助っ人参戦を頼まれて出かけると、華乃が居たのでダメ押しをしておいた。


華乃の所は大騒ぎだったようで何人かの女子がこっちに来てしまい、女子共がナワバリを守る猫のように敵意を剥き出しにして、男どもは「あの子良くね?」なんて盛り上がっていた。


だが俺からしたら痛くない。

昔から華乃はウチに来ていたし、買い出しとか行かされて2人で出歩くから友達なんかは遠巻きに顔を見ている。


友達から「お前、彼氏って思われてね?」と心配されて、「だとしたら華乃に彼氏が出来なくて悪いことしたかもな」と笑い飛ばしておいた。


まさか数年してそれが現実になるとは思わなかった。


高校生になって最初の冬。

いきなり「電車が止まって帰れないから復旧まで居てもいい?」と華乃から連絡が来た。

ウチは問題ないし、冬の夕方に女の子を放置するなんてダメなので、母さんと話して駅まで迎えに行った。


華乃は見るからに疲れ切っていて何かあったことはすぐにわかった。


ウチに連れ帰ってコタツに突っ込んで母さんがココアを淹れて話を聞くと、どうやら男に振られてしまっていた。

泣いている華乃の話は不鮮明で曖昧で首を傾げたくなる箇所もあったが、俺を彼氏だと勘違いした男が俺と比べられたくないと言って、告白すらさせて貰えなかったそうだ。


「わかった。とりあえず一度寝とけ」と言って布団をかけて、「よしよし」とあやしているウチに段々と俺まで眠くなってきてしまったが、頑張って眠気と闘いながら背中を叩いたら俺は寝てた。


母さんの怒号で起きた時、俺の顔の目の前に華乃の顔があった。

顔の近さによるいやらしさに母さんが怒ったのかも知れないが、俺と華乃に何かが起きる訳もない。


それこそあの夏の日のお風呂を思い出した。

父さんはこたつで眠ると危険なのに布団までかけた事を持ち出してくれたが多分母さんの怒りは違う。


華乃を父さんと送った帰り道に車の中で父さんに聞いても良かったが、聞くことは憚れて「華乃の奴、俺が彼氏だと勘違いされて告白すらさせて貰えなかったんだって」とだけ言うと、「成程ね。まあその彼氏は大変だよね。航と比べられるからね」と父さんは言った。


「大変なの?」

「そうさ、逆に航に彼女が出来た時、彼女は華乃ちゃんと比べられて大変に感じるかもね」


俺は「比べないよ」と即答したが、父さんは「そうかい?気に入って読んでる筋肉探偵を彼女が嫌がった時に、華乃ちゃんは好きだって言ったのにって比べないかい?」と言い、その言葉に少しだけ自信が無くなっていた。

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