第3話 言い訳彼氏03。

それからの高校生活に恋愛はなかった。

友達は私を振った男の子に全部聞いていて、それも含めてわかるかなと言った。


「華乃は意識していなくても、その男の子との事が基準になっていて、距離感とか全部その子に合わないと悪く思われそうなんだよ」


そう言われて驚いている時もアイツからはメッセージが入る。


「なんか言われたりしてないか?こたつで殺しかけてごめんな。次も来いよな」


次は行きにくかったが行った。

今回行かないのは意識しているような気がしてしまって逃げ出せなかった。


だがやはり回数は減る。

親達も尿酸値がだの、コレステロールがと言ってペースが落ち込んでいたので、最終的には年一回くらいになっていた。


私が誘わないからか、アイツも外で会おうとは言わない。

そもそもそんな関係ではない。

でも出先でカップルにはサービスがあるというPOPなんかを見て、そのサービスを受けたくなるとアイツの顔、言い訳彼氏の顔がよぎる。



大学で彼氏が出来た。

何となく意地の部分もあったし、アイツ以外の男の人とも付き合えると証明したかったのだが一年しかもたなかった。


彼氏からは必死過ぎると言われてフラれた。

そう、私はアイツと比較しないように必死だった。


ドツボだったが、丁度いいと切り替えて就活に勤しむ。

仕事を見つけて親を安心させると、今度は結婚はまだかと言われる。

何て無責任なのかと思ったがどうにもうまく行かない。


そんな頃、アイツは結婚をした。

彼女がいる話は何度も聞いていたし、今も続いていて結婚するとは思わなかった。

付き合いたての頃、母とおばさんは区切りやけじめだと言わん勢いで私にその子を紹介してきた。


アイツの一歳上、本当なら私と同学年。でも今はアイツと同学年の女性は明るくておおらかな女性で、ポンと言えばポンと返すし、私がアイツと話していてもヤキモチなんて妬かない余裕と自信があった。


そんなアイツと彼女の結婚式にも家族で呼ばれて参列した。

とても素敵な式だった。


そこから私は壊れたんだと思う。


何度恋人が出来ても航と比較した。

航ならと比較して嫌われた。中にはそれでもと言って結婚を意識してくれていた人もいたが、最後には壊れてしまって去っていった。


その間にも航の結婚生活は順調で、子供が生まれた。

男の子だった。

私の立場は微妙で、親同士が友達なだけの家族のような仲であって家族ではない。いつでも没交渉が可能な位置にいてお祝いに悩んだが可愛らしい赤ん坊の服にした。


有名なキャラクターの洋服はすぐに着れなくなるのに高かったが、記念でお祝いだからと自分に言って奮発をした。

到着するとすぐに「ありがとう華乃」とメッセージが入ってきたので、私は「おめでとう」と返事をした。


そんなメッセージのやり取り。


「赤ちゃんの写真見せてよ」と送ると、「送るー」とすぐに返事が返ってきて、数分後に届いた写真は奥さん付きの写真だった。


航は間違っていない。

だが私は胸が痛かった。


そこから私と航はズレていった。

昔のようにメッセージを送ってもリアクションが乏しい。


既読が付くまでに時間がかかるようになり、既読が付いてから返事まで時間がかかるようになり、返信は素っ気なくなった。


私はその頃に実家の息苦しさが嫌になって家を出た。

両親の心配と期待、独立を喜ぶような空気を浴びながら始めた独り暮らしは大変な部分もあったが、30を過ぎていて多少は世の中に揉まれていたのでなんとでもなった。


そんな頃、高校の同窓会に顔を出した。

皆それぞれの人生を歩んでいて、会話は大体仕事の事と恋愛の事と、定年退職間際か定年退職をした親の事だった。


そんな中「よぅ」と話しかけてきたのは高校二年で私を振った男だった。

もう見上げても顔は赤くならなかった。


久しぶりに話していると「あの時、断らなきゃ良かった」と言われて、呆れや怒りを通り越して正気を疑った。


私が無言だったからか、表情に出ていたからか「いや、気持ちには気づいていたし、俺も悪い気はしてなかったんだよ。でもどうしても噂の彼氏と比べられたり、顔を合わせた時にヤキモチ妬きたくなくてさ」と照れくさそうに話す姿には少しだけ好感が持てたので、「わかる。あの時は分からなくて、この世のドン底って思ったけど今ならわかるよ」と言って連絡先の交換をした。


その後、デートでもないが食事とかに出かけて、何回か付き合いそうな空気になったが、お互いに「今更だよな」、「本当だよね。今の生活とか変わる生活を意識するとこの先が出ないよね」と言い合って、「このまま飯食ったり1人じゃ行きにくい所に行くのにちょうど良い仲がいいのかもな」「そうだね」と言って終わる。


40になる頃、実家に顔を出した時に、親からは結婚しないのかと言われたが、「彼氏はいても踏み切る材料が足りないよ。この歳になるとお互いの生活が出来るから、結婚は若いウチに勢いでやらないと無理だね」と返すと、「航くんの所は子供が中学生よ?」と言われたが、「張り合っても意味無いよ」と言って終わらせて、「じゃあデートなんで」と言って新たな言い訳彼氏と飲みに行き愚痴を言う。


「酷い話だよな。ガキの頃は勉強しろ、恋愛なんて二の次だなんて言ってて、社会に出たら急に結婚はまだか?結婚しろだもんな」

「本当、困っちゃうよね」


「まあまだ女はいいさ」

「はぁ?私からしたら男はいいよねだよ」


【女はいいさ】は、このご時世…コイツに言わせれば女尊男卑の世の中で、1人を選ぶ女は自立した強い女と思われているが、男は結婚もできない痛い男認定されて、肩身が狭いどころか無くなって、立場も無くなるから首だけで生きていく感じだと言う。

私はそれを言うなら男は40過ぎても子供が授かれるが、女はタイムリミットがあるんだと言う。


「まあ、自分で意識して覚悟があればいい話だよね」

「そうなのか?」


「そうだよ。健康診断どうだった?尿酸値とか言われなかった?」

「言われた」


「痛風になるよと言われてもビール飲んでるよね?なんで?」

「わかっているけど、そう言われて我慢できない」


「それだよ。私だっていつ子供が産めなくなるか分からないけど、だからってそれを理由に結婚はできないよ」

「成程、深いな」


私は「逆、単純だよ」ビールを煽って、言い訳彼氏にしてしまったコイツに「ちなみにウチのお母さんが結婚とかうるさかったから彼氏とデートって事にしてる。今の言い訳彼氏は君だよ」と言うと、「マジかよ、お前懲りないのな」と言われた。


言い訳彼氏は都合がいいんだよ。

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