第2話 言い訳彼氏02。
部活の大会に出かけたらそこにアイツが居た。
私は油断し切っていたが、聞き覚えのある中学校の名前に「暇つぶしにアイツに実況中継しながらアレコレ聞いてやろう」くらいに思っていたら、後ろから「華乃」と呼ばれて振り返るとアイツが居た。
「航?なにやってんの?」
「助っ人。数合わせで来たんだよ」
姉弟に見える距離感での会話。
だが周りには恋人同士の距離感の会話に見えていたのだろう。
周りは大騒ぎで頭を抱えるがアイツは気にしない。
それどころか「来月は?この前は来なかったけど来るんだろ?」と聞かれてしまう。
「うん。来月は行けると思うよ」
「来月は?その先ってなんかあんの?」
「受験だよ受験!来年三年生だよ!」
「ああ!そっか、同い年だから勘違いしちゃうんだよな。悪ぃ。じゃあそれから2年はダメだなー」
私は2年がわからずに「2年?」と聞き返すと、呆れるように「その次は俺も受験だろ?」と言われた。
「確かに」と言った私はそれまで2年も会わなくなる事をイメージしていなかった。
そう思うと会えている時は毎月会っていたのに、会えなくなる事に驚いてしまった。
「まあいいや。おじさんとおばさんによろしく」
「うん。そっちもよろしく」
その後は帰るまで会う事はなかった。
大騒ぎになってわざわざアイツの試合を見に行く奴や、アイツの学校の生徒が私を探しに来て先生がピリついてしまい大変だった。
後で聞いてみると「ダメ押しだよ。これで嫌な奴から何も言われなくなるだろ?」と返ってきて、私はなるほどと納得をした。
翌週からアイツとの事は騒ぎになったが、ごく普通にしていたらすぐに沈静化した。
お陰で中学生の時は良かったが、高校になって痛い目に遭った。
それはアイツの存在が噂になり過ぎていて、私の恋愛は見事に失敗をした。
一年の時に同じクラスになった男の子に恋をした。
凄く素敵に見えた。背丈も少し見上げる感じが良くて見上げるだけで顔が赤くなる。
だけど二年の冬に告白をしようとしたら、出鼻を挫かれて告白すらできずに振られた。
グループデートで遊園地に行った。
メンバーはカップルの友達とフリーの私達だが、私は彼の事が好きで友達がお膳立てをしてくれてグループデートの様相で遊園地になる。
根回しではないが、告白の話も出ていて友達は応援してくれていた。
寒い冬の日、夕方になりイルミネーションが綺麗に輝く中、…観覧車の中で告白しようとしたら「お前って彼氏いるんだろ?有名だぜ?」と言われてしまった。
「え?」
「違う学校の幼馴染で、中学の時から付き合ってるって…」
私は驚いた。
アイツの事を別の中学から来た彼まで知っているとは思わなかった。
その顔を見て彼が「あれ?もしかして付き合ってないの?それとも別れたの?」と聞いてきて、私は必死に「そうだよ!」と「付き合ってないよ」と言おうとしたのだが、その前に「どっちでもいいや、俺は付き合えない」と言われた。世界が静止したみたいだったが観覧車は動きイルミネーションの光が目に突き刺さる。
口が乾いて涙が出そうになりながら、「なんで?」と聞くと、「比べられたくない。生まれた頃からの仲なんだろ?お前の知らない本当の俺を見て、「アイツなら」なんて言われたくないし思われたくない。ソイツが許したお前の癖を見て、俺が嫌がった時「アイツはそんな事言わないのに」なんて言われたくないし思われたくない。だから言わないでくれ」と言われて私の初恋は終わった。
最寄駅は違うが路線は一緒なので、帰りも皆で行動することになるのだが、私は皆と帰る気になれなくて理由をつけて別の道で帰った。
女友達は玉砕を察して何も言わずに見送ってくれた。
路線を変えたら運悪く電車が止まってしまって帰れなくなってしまい、困った私はギリギリ立ち寄れたアイツの家に避難させてもらう事にした。
憔悴した顔を見ておばさんは心配してくれて、驚いたアイツが「話聞いてやるから話せ!」と言いながら私をコタツに押し込んだ。
おばさんのココアを飲みながらフラれた話をして、ワンワンと泣いていたらいつの間にか寝ていた。
起きたのはおばさんの「なにやってんの!」の声で、目を覚ましたら横でアイツが眠っていた。
密着まではいかないが近い距離に居たことに目を丸くすると、アイツは「寝ちゃったから、布団かけてやって赤ん坊を寝かしつけるみたいにあやしてたら、俺まで眠くて寝てたみたい」と言っていた。
おばさんは「変なことしてないでしょうね」とアイツに怒っていたが寝る前とは空気感が違う気がした。
おばさんは私にも怒っている気がした。
おじさんは夜になって休日出勤から帰ってくると、アイツに「それはお母さんも怒るよ」と言う。
「なんで?泣いてたらあやしてあげなきゃ?」と返すアイツに、「こたつで寝ると脱水症状になったり良くないんだよ。こたつに布団なんてダメなんだよ」とおじさんが言うと、「なるほど、殺しかけていたのか」と言ったアイツは笑っていた。
おばさんの怒りを察してか、おじさんは夕飯の後で車を出してくれた。
私は電車が復旧したら帰れるからと言ったが、おじさんとおばさんから「女の子なんだから危機感を持つんだよ」と言われてしまいウチまで送ってもらった。
ウチについて目を三角にしていたお母さんに、アイツが「殺しかけちゃってごめんなさい」と謝ると場は和んで「夏の扇風機と冬のこたつは危険なのよ」と笑い話になった。
だが翌日、笑い話では済まなくてお母さんから聞かれてことの経緯を話す羽目になったら、「自業自得。楽をとるからそうなるのよ」と言われて何も言えなかった。
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