第26話

 今日はカフェチェルビーの特別営業日。

 隣国の国王陛下と王子、そしてこの国の王族たちが一斉に来店される。

 ソニアさんたちの警備も普段以上に厳重であるため、一般のお客さんは入ることができない。


 ジャーキさんとミーナさんからは、今日はなぜかキッチンからは絶対に出ないと言われた。

 すでにキッチンにこもって軽食を仕込んでいる。

 普段は王宮で使用人をやっているはずなのに、どうして緊張しているのだろう……。


 そしてレリック殿下は、すでに私の隣にいる。いまだに私の厳重な護衛って必要なのかどうか疑問である。

 準備は整い、ついに隣国の国王陛下たちがいらした。


「こんにちは。カフェチェルビーへようこそ」


 普段と同じように接客をするよう言われていたため、言葉使いも変えずに普段どおりの挨拶をした。


「なんと美しい……」


 最初に声をかけてきたのは、おそらく隣国の王子。

 着ている煌びやかな王服が千切れてしまいそうなほどの、ご立派な体型をしているが、私と同じくらいの身長である。

 視線が私の胸あたりに容赦無く向けられるのもいささか不満はあったが、ここは我慢した。

 しかし、レリック殿下が私の前にたち、胸に向けられ続けた視線からも解放される。

 護衛してくださりありがとうございますと、心の中でお礼を言っておく。


「これはこれはお久しぶりでございます、ダラブラ陛下ならびにデーブラ王子」


 ダラブラ陛下と呼ばれた国王は、ニコリと微笑み優しそうな雰囲気を漂わせていた。

 右腕の手首には痛々しそうな傷跡がある……。


 いっぽう、デーブラ王子はつまらなそうな表情をしながら、私の胸などをじろじろと見ようとしてきた。

 レリック殿下のおかげで完全防御ができているため、それが気に喰わないようだ。


「こちらへお座りくださいませ」


 それ、私が言うはずだったセリフですが……。

 レリック殿下がダラブラ陛下とデーブラ王子を真っ先に奥の席へと誘導した。

 私は続いて自国の陛下(以下、ブルグレイ陛下)を同じテーブル席へ案内する。


「窓が見える席でなく、店内を見渡したいんだよね」

「いえいえ。こちらがカフェチェルビーの特等席ですよ。窓から眺められる景色は、この店のコーヒー豆や紅茶の茶葉を育てている庭園を堪能できます。ほのかに窓の隙間から言い匂いもするでしょう?」


 いつからあの席が特等席になったのかいささか疑問だ。

 一番人気のテーブル席であることは間違いないが、他のテーブル席とさほど変わらない。

 むしろ、常連になってくれたお客さんは、もっとキッチン寄りの席を選んで私たちと会話を楽しむ人もいる。

 だが、レリック殿下がこの席を指定してくれてたおかげで、デーブラ王子からの嫌らしい視線は大幅に激減できたと思う。


「ん……。んん……」

「どうしたデーブラよ。レリック殿が気を利かせてくれたのだからもっと喜ぶが良い」

「は、はい……」

「メニューはこちらです」


 レリック殿下が全部やってくれている……。

 私がいつもやっていることを全て。

 いつの間にこの店の接客を覚えていたのだろう。


「僕は紅茶にします。父上は?」

「そうだな……。ブルグレイ王のオススメはどれですかな?」

「全てですよ。どれを飲まれても美味しいうえ、疲れも吹っ飛びます」

「ほう、疲れも……?」


 疲労回復は、人によってだと思う。

 むしろ、そんな効果はないだろうし、確証がないのにそれを求めて来られても困る。


 ブルグレイ陛下とダラブラ陛下にはコーヒー、デーブラ王子には紅茶を提供することになった。

 頼まれてはいないが、護衛さんたちにもお茶を用意しておく。


 私はキッチンで用意し、それをレリック殿下が持っていくという流れになってしまった。

 呼ばれるまではキッチンから出ないようにレリック殿下に言われてしまったためである。


 しばらくすると、さっそく呼び出され陛下たちのテーブルへと向かった。


「このコーヒーを淹れてくれたのはキミか……?」

「はい。いかがでしたか?」

「こんなに美味しいコーヒーは、過去に一度飲んだきりだ……」


 隣国の王様からそう言っていただけて嬉しい。

 ダラブラ陛下が過去に一度飲んだというコーヒーを機会があれば飲んでみたいなぁと思う。

 いきなり聞くのは失礼にあたるだろうし、夢物語で終わってしまいそうかな。

 ところが、ダラブラは私が思いもしなかったことを聞いてくるのだった。


「キミは……聖女かい?」

「え⁉︎」

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