第25話

「フィレーネ殿にお願いがあって来た」

「は、はい! 私にできることであれば!」


 あらたまった態度で、カフェチェルビーへ訪れてきたのはレリック殿下。

 なにか申しわけなさそうな雰囲気も漂わせているが、遠慮しないで喋ってもらいたい。

 国王陛下やレリック殿下にはこれでもかというくらいの恩義があるのだから。


「どうしましたか?」

「無理なら断ってくれてかまわない。結論だけ先に言うと、一日だけ、カフェチェルビーを国の貸し切りにさせてもらいたい」

「…………⁉︎ 詳細をお聞きしたいです」


 ただごとではないことくらいはわかる。今回ばかりは慎重になったほうが良いと思う。貸し切りにするかどうかは詳しく聞いてからにすることにした。


「二週後、隣国の王子と国王との対談がある。今回は我が国に招き入れることになっている。その際に毎回やっている恒例行事があってね。王都内で一番お勧めしたい貴族以外が経営している店を紹介するというものなのだよ」

「え? えぇぇえええっ⁉︎」


 お姉様たちが特に羨ましがっていたやつだ!

 高原に店を構えているから対象外になってしまうからと、悔しがっていたっけ……。

 大変名誉なことではある。


「オープンしたばかりの店なのに良いのですか?」

「もちろん。フィレーネ殿が良いと言ってくれるのならば。ただ、その日は普段営業しているときよりも気張ってしまうかもしれない」

「むしろありがとうございます!」

「本来ならば、特別メニューや限定の対応を求めることもしている。だがカフェチェルビーならば、普段どおりに営業してくれれば大丈夫だと思う。


 それなりも覚悟はして引き受けようと思っていたが、その必要もいらないらしい。

 どうしてレリック殿下は言いづらそうな態度をしていたのだろう。


「ひとつだけ頼みがある」

「はい。ひとつと言わずいくらでも聞きます」

「念のために、その日は私も護衛としてフィレーネ殿のそばにいたい」

「はい⁉︎」


 普通逆だと思う。

 王子という立場の人間を護衛するはずなのに、なんで私が護衛されるのかが不思議だ。


「前回の対談のときに、隣国の王子が言っていたことが引っかかっていてな……」

「なにを言っていたのですか?」

「そろそろ婚約者を決めないと、と……」


 それと護衛となんの関係があるのか、私にはさっぱり分からなかった。

 とはいえ、レリック殿下がそばにいてくれるのは大変心強い。

 普段から王子や国王陛下と接する機会が増えたため、良い意味でなれてきた。

 だが、隣国の王子や国王陛下が相手だとそうはいかないだろう。

 近くにいてくれるのは助かる。


「離れないでくださいね」

「…………⁉︎ も、もちろんだ!」


 レリック殿下は顔を赤くしながらなぜか照れていた。

 黙って近くで聞いているソニアさんたちがニヤニヤとしている。

 私、なにか変なことでも言ったかな……。

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