第24話
カフェチェルビーに、王宮から助っ人が来てくれるということで、楽しみにしていた。
顔合わせをしたのだが、一人は二十代くらいの女性。もう一人は、私が良く知っている人物だった。
「本日よりカフェチェルビーへ配属になりましたミーナです」
「王宮にて使用人を務めていましたジャーキです。改めてよろしくお願いいたしますね、フィレーネ様!」
私が王宮へ行くたびに、おいしい紅茶やお菓子を用意してくれた使用人さんである。
「使用人さんが配属になるとは驚きました」
「ラテアートをご教授するには現地でやったほうが格段に効果がありますから。陛下からも許可をいただいておりますゆえ」
そこまで気を使っていただいてしまったことに感謝したい。
「ミーナさんもジャーキさんも、よろしくお願いいたします!」
「頑張ります〜」
「はい。ミーナ様は王宮直属料理人のサブリーダー候補として腕を磨いている最中なのですよ。軽食関連は彼女にお任せしてしまって問題ないかと」
「いやですよぉ料理長〜。ミーナ様だなんて〜」
ミーナさんがジャーキさんに対して冗談でしょうと言った態度で、はははと笑っていた。
しかし、ジャーキさんが顔を引きつらせながらジロリと彼女に睨みをきかせる。
「はっ……そうでした。すみませんすみませんっ!」
「まったく。冗談を言うのもほどほどにしてくださいよ。ミーナ様は時々変なジョークを始めて場を盛り上げようとする癖があるのです……。申しわけありません」
そういうことだったのか。
一瞬、ジャーキさんが実は王宮に仕えているあの有名な料理長なのかと思ってしまった。
ジャーキさんが淹れてくれる紅茶もお菓子も、毎回とろけてしまいそうなくらい美味しい。
ラテアートも彼から習うわけだから、疑ってしまったよ……。
新体制でカフェチェルビーのオープン準備に取り掛かった。
♢
「新商品のやつが飲みたい」
「カフェラテラテアート付きで、ふたつお願いします」
「あとランチもふたつねー」
ランチはミーナさんたちにお任せしている新メニューである。
カフェラテ、そしてラテアートを何度か練習して、お客さんに提供してみた。
紅茶、コーヒー、お茶をそれぞれ注文してくれているのに、さらに追加オーダーで頼んでくるパターンが多い。
ありがとうございます。
ミルクは王宮で使っているものを分けていただいた(もちろん仕入れ代金は払っている)。
美味しくなるよう、聖なる力も誠心誠意こめてカフェラテを作り、最後に簡単な絵を描く。
「お待たせしました。気に入っていただけたら嬉しいです」
初めてのことだから、反応がとても気になった。
「……美味い!」
「絵が可愛いから飲むのがもったいなかったけれど、味もとっても良いわ」
「また伝説が生まれそうですな」
伝説って……。
ともかく喜んでくれているようでホッとひと安心。
キッチンに戻り、私はジャーキさんに深く頭を下げた。
「みんな喜んでくれています。これもご教授くださったおかげです。ありがとうございます!」
「なにをおっしゃいますか。フィレーネ様の覚えが早く、なおかつ正確に技術を吸収してくださったからですよ。私はあくまで知識を伝授しただけですよ」
「フィレーネちゃんが料理ちょ……じゃなくてジャーキ様にメッチャ褒められている……」
「ミーナ様! そういうことを言わないように」
「あっ……ついうっかり! 失礼しましたっ!」
ミーナさんが怒られている。
ジャーキさんが上司で、ミーナさんが部下のように見えてしまうなぁ。
「ミーナさんもありがとうございます。ランチも大人気で誘導効果で今までのメニューも多く売れました。お客さんもお腹が満たされて大満足のように見えましたよ」
「フィレーネちゃんの飲み物があってこそですよ〜。あ、私も一杯飲んで良いですか? 疲れちゃったー」
「もちろんですよ。なにが良いですか?」
「じゃあ、アイスティーで」
ミーナさんとジャーキさんだけではない。
警備として店を守ってくれているソニアさんたちにも飲み物を出して、ひと休みをしてもらった。
もちろん、おいしくなるように聖なる力をふんだんに込めて……。
「「「「「元気になりました!」」」」」
またまた大袈裟な……。
翌週、ランチとラテアートの新メニューととある効果でカフェチェルビーが大変な自体になることを、このときの私は知らない。
みんなとクローズ後の片付けをしながら呑気にしていたのだった。
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