第14話
一週間分の売り上げ報告と、利益の一部を家賃として支払うために、久しぶりに王宮へ行った。
王宮へ頻繁に出入りしていること自体がとんでもないことだと改めて思う……。
応接室でレリック殿下を待っているのだが、今日もまた美味しい紅茶とお菓子を用意してくれた。
癒される。
いずれ、お菓子もカフェで出せるようになりたいな。
「すまない、待たせてしまった」
「ご無沙汰しています。紅茶もクッキーも大変美味しくて、待っただなんて思いませんよ」
「そう言ってくれると助かるよ。さて……では本題に入ろう」
一週間で合計20杯売れ、8,000ゴールド。
それから大商人バーバラ様からのチップで199,600ゴールドを手に入れた。
そこから看板や筆の購入で20,000ゴールドを使ったため、187,600ゴールドの利益だったことを報告した。
看板も、バーバラ様からのチップがなかったら買うことができなかった。
本当にありがたい。
「そうか、大商人バーバラ様もいらっしゃったのか」
「はい。大変ありがたいお言葉をいただけたので、やる気も一層強くなりました。しかし、売り上げは高原の三姉妹カフェのときと比べても微々たるもので……申しわけございません」
たとえ目的は達成しようとも、貴重な場所を借りているわけだから、それなりに結果も出さないといけない。
日に日にお客様がほんのちょっとづつ増えている実感はあるため、今後徐々に売り上げも上がっていくとは思う。
「気にすることはないよ。むしろ、しっかりと一人一人に向き合っている姿勢は素晴らしいと思う」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「ソニアからも報告は受けているよ。できる限り自分の力で頑張ってみたいという気持ちにも感服した」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟ではない。むしろ、我々王族を利用し、少しでも宣伝などを求める民の要求を良く依頼されていたからな……。だが、フィレーネ殿は違った。本当に素晴らしいと思う」
意地のせいで迷惑をかけてしまっているのは重々承知だ。
それなのに、こんなにもレリック殿下は私のことを褒めてくださる。
ほんの少しだが、なんとか先行して借りているお金はできるだけ早く返さないとという、重くのしかかっていたプレッシャーからも解放された気分だった。
もちろん早く返すという気持ちは変わらないが。
「利益が少ない分、今回はたくさんの豆や茶葉を持ってきました」
レリック殿下が興味深そうに、私が持っている袋に視線を向ける。
「中にはコーヒー、紅茶、お茶、それぞれ100杯分ほど淹れることができる量が入っています。ぜひ王宮の方々で飲んでいただければと思います」
「そんなに良いのか⁉︎」
「むしろ、少なかったかと思いました。もう少し改善をしていき、より多くの収穫もできるよう工夫はしていきたいと思っていますが……」
なにしろ高原から持ってこれた種や茶葉が少なかったのだ。
今はどんどんと素材を増やしていかなければならないため、収穫せずにそのまま土に植えて増殖させることに集中している。
その分収穫できる分も少ない。
「十分過ぎるほどだ。やはりフィレーネ殿は素晴らしいよ……」
レリック殿下はどういうわけか絶賛してくれるが、実感がない。
営業初日まで毎日王宮で美味しい食事と風呂、そして寝床まで用意してくれた。
これだけでもとんでもない恩義があるわけだが、それに加えて家賃の優遇や備品などの支援も受けている。
どうやってこの先返していけば良いのだろう……。
「と……ところでだが……フィレーネ殿?」
「はいっ!」
レリック殿下が妙にソワソワしながら喋ってくるが、私は元気よく返事をした。
「もし……フィレーネ殿が良ければの話ではあるが、カフェチェルビーが休業の日、私とともにデート……こほん。王都内の視察に同行してくれないだろうか」
咳払いをしたあとはしっかり聞こえたが、『私とともに』のあとが、やたら小声で聞き取れなかった。
要点は理解できたから、もちろん指示に従う。
レリック殿下の仕事の手伝いをしてほしいということか。
私に勤まるのかはいささか疑問だが、レリック殿下が望むのならば、しっかりと応えよう。
「はい! かしこまりました。明日がちょうど休業日ですが、よろしいのですか?」
「あぁもちろん。カフェチェルビーの休業日はしっかりと把握している。私もその日に合わせて休暇をだな……」
「休暇? はい? 視察は仕事ではないのですか?」
まさか、王子ともあろうお方がサービス労働⁉︎
もしくは実は王宮ってブラック企業⁉︎
ソニア様や護衛も毎日つきっきりでいてくれるし、むしろそうなのかもしれないと心配になってきてしまった。
これってマズいんじゃないという視線で、じーっとレリック殿下を凝視する。
すると、レリック殿下は私から顔を逸らした。
嘘をついたり疾しいことがあると目を逸らすものだ。あ、これは確定だな……。
王宮も大変なんだなと思った。
「視察とは言っても……、私の趣味だよ。王都の街並みを散策するのはな」
「はぁ……。お気持ち察します……。明日は少しでもレリック殿下の役に立てるよう努めたいと思います」
「なんと優しいのだフィレーネ殿は……」
これは想定外だった。
レリック殿下がこんなにも大変な日々を送っていただなんて……。
さすがに王族貴族の業務に口を突っ込むわけにはいかない。
せめて、気持ち程度のことしかできないと思うが、明日は最高の気持ちを込めて紅茶の茶葉を収穫して、レリック殿下に渡そう。
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