第13話
「カフェチェルビーがオープンしました。よろしくお願いいたします」
「カフェチェルビー、先日営業開始しました。ぜひ!」
「カフェチェルビーでゆっくりまったりすごしてください。よろしくお願いいたします」
お客さんが来ないなら、こちらから声をかけて店内へ呼び込もう作戦を始めてみる。
営業時間中は私は店内にいなければならないため、営業が始まるまえに、店の外でひたすら声をかけまくった。
幸い人通りは良いため、どんどん声をかけることができる。
だが……。
「あっそ」
「うるさい。俺は忙しいんだ」
「話しかけんな」
「お嬢ちゃん可愛いな。俺と良いことしてくれるなら行ってもいいぜ?」
思うようにうまくいかない。
初日に来店してくれた大商人バーバラ様は奇跡だったのかもしれないな。
まだ営業時間まで少しだけ猶予がある。
こうなったら、近くにある色々なお店を回って、どこが違うのか分析してみることにした。
ぐるりと一周して、カフェチェルビーと、他の飲食店系列と明らかな違いがあることに気がついた。
すぐにカフェチェルビーに戻り、警備として待機してくれているソニア様に相談する。
「看板のようなものを作りたいのですが、どこにいけば手に入るかご存知ですか?」
「そうですねぇ……。むしろ、私やこちらの使用人、もしくはレリック殿下に協力を要請すれば簡単かと思いますが、それではダメなのですよね?」
「申しわけありません。お気遣いは大変ありがたいのですが、これ以上協力していただいては、この先も困難になったときに困るのは自分かと思ってしまいまして。できる限りは頑張ってみたいのです」
本来ならば、王子や公爵令嬢といった方々の力を借りたら、強力な宣伝効果であっという間に賑わうと思う。
だが、私は過去の経験からそれではダメだと思ってしまうのだ。
お母様とお父様が築き上げてきた高原のカフェだが、なにも苦労せずに三姉妹カフェが繁盛してしまった結果が姉妹崩壊への道。
サーラお姉様もエマお姉様も、なんの苦労もせず、ただただ今まであったものをこなしてきただけだった。
その結果、価格を上げようとしたり種植えや収穫作業を放棄したりと、楽ばかり選ぶようになってしまったのだ。
私は絶対にそういうふうにはなりたくない。
頼れるところは頼るが、自分でできることはできる限りやってみたいのだ。
それでもダメだったときには頼るしかないが……。
私の気持ちを詳しくソニア様に話すと、彼女は私の両肩に手をぐっと乗せてきた。
さすが騎士団長というだけあって、すごい力だ。
「なるほど、接客の手伝いなどをあえて頼んでこなかったのはそういう理由だったのですね。感心しました。騎士も日々の努力と訓練で成長していくもの。フィレーネさんも努力して結果を出したいのですね!」
「あ……えぇと、そこまでではなくてですね――」
「素晴らしいです! 今は大変かもしれませんが、きっとのちに大きな成果となっていくことでしょう! 私たちは引き続き、警備と護衛をしっかりと全うしたいと思います!」
ソニア様が言うほど大それたことはしていない。
ただ自分のできる範囲のことは思いっきり挑戦したい。
それだけのことだ。
王都へ来たときはお金が一文無しだったし、場所に関してはどうすることもできなかったからレリック殿下の提案を頼った。
ごはんも寝床も、王都の路上では命に関わることだってあるし、遠くに売られてしまうケースもあり得た。
だが、今はここまで至れり尽くせり協力していただいたのだから、私が頑張る番。
お客さんが来ない間に、大きな看板を手に入れ、筆を使って仕上げる。
どう見てもただの落書きというくらい酷い出来だ。
それでも無いよりはマシ……多分。
看板が大変重いため、フラフラしながら店の外へ出ようとしたのだが、ソニア様が半分持ってくれた。
「ありがとうございます」
「こういうことは頼ってくださいね。無理して怪我でもされたらそれこそ護衛任務としては大問題ですから」
そうだった。
すでに、私一人だけで店をやっているわけではない。
矛盾しているかもしれないが、力が必要な作業などはソニア様を頼ろう。
どんなに頑張っても、筋力はすぐに向上させることはできないのだから。
ソニア様が看板を綺麗にたてかけてくれ、おまけに釘を使って倒れたり飛んでいったりしないように固定してくれた。
「助かりました。ありがとうございます!」
「いえいえ。これくらいのことはお任せくださいね」
下手な看板だが、これでこの家がカフェであることは認識されただろう。
看板効果があったのか、ようやくお客様がちらほらと入ってくるようになった。
今日は合計6人のお客様が来店。
コーヒーと紅茶が3杯づつ、お茶が2杯売れた。
売り上げは合計3,200ゴールド。
「美味しかったわ。また来るわね」
「こんなすげぇ店があったなんてなぁ。明日も休憩時間はここ使うよ」
「味も接客も最高。ここは知人にも教えたい店だなー」
みんな笑顔で帰ってくれた。
経営としてはこれではダメなのかもしれないけれど、私の目的である来店してくれた人たちを笑顔にさせるという目標は達成できた……と思う。
まだまだこれからだ。
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