第2話
徹夜で歩き、すでに日は昇っている。
やっと王都の外郭まで辿りついた。王都へ入る門まですぐそこ。
これから新しく始めるカフェと農園ができそうな場所を探す必要があるため、休んでいる暇はない。
だが、すでに私の足は棒のようで、これ以上歩くのは厳しい。
その場でへたり込んでしまった。
門に立っていた警備兵たちが駆けつけてくれ、私のことを心配そうにしながら見ている。
「どうした? 大丈夫か?」
「まさか、馬車を使わずにここまで来たのか?」
「どこから来た?」
最後に尋ねてきた人は、警備兵のような格好ではなく、むしろどこかの貴族様のようにも見える。
今は私自身に余裕がなく、返事するだけで精一杯だった。
「三姉妹カフェからです……」
力を振り絞って声に出す。
すると、警備兵たちは驚いた表情を見せながら、なにも言わずに持っていた水筒の水を分けてくれた。
戴いた水を一気に飲み干し、すっかり体力も回復した気分だ。
「ありがとうございます! 生き返りました」
「間違ってたらすまない。もしやキミは三姉妹カフェで働いている者ではないのか?」
貴族っぽい服装を着こなした人が尋ねてきた。
「はい。そうでした」
「でした?」
「王都でカフェを開きたいと思っていまして、家を出てきたところなのです」
私のことを知ってくれているということは、三姉妹カフェに来店してくれたのかもしれない。
両親が頑張ってやってきた店のイメージは落としたくはないため、家を追い出されたことは黙っておく。
「そうだったのか。その割にはやたらと軽装だが……。引越しはまだで、場所探しでもしているのか?」
「はい、そんなところです。実は右も左もわからず、お店とある程度の規模がある畑を見つけようと思っていまして」
「なるほど……。ちょうど良い立地があるのだが、見てみるかい?」
警備兵と一緒にいるわけだし、怪しい人ではないと思う。
それに私はこの先どうしたら良いのか本当にわかっていない。
お言葉に甘えて高貴な服装を着こなしたお方に頼ってみることにした。
「ありがとうございます。名乗り忘れていましたが、私は三姉妹カフェの末女、フィレーネと申します」
「おっと失礼。私も名乗っていなかったな。レリック=ブルグレイだ」
「え……⁉︎」
その名前を聞いて、疲れ切っている私でもすぐに跪く体勢をしなければと思った。
すぐレリック殿下は手を前に向けて、しなくても良いと言い止めてくれる。
「今は王都の街並みを散歩しているだけだ。私が王子だということは気にしなくとも良い」
お顔を拝見するのは初めてだが、ブルグレイ王国にいる者で王子や国王の名前を知らない者はいない。
一瞬、王子なのかどうかと疑ってしまったものの、着ている服装、他の警備たちが頭を下げているところから見て本当だろう。
いったい、どうして庶民の私に対してこんなに優しい言葉をかけてくださるのだろうか。
「ありがとうございます、レリック殿下」
「構わないよ。だが少し待っていてくれ。馬を用意させよう」
「そんなに至れり尽くせりしなくとも……」
「フィレーネ殿と言ったな? 高原のカフェから歩いてここまで来たのだろう? 相当疲れているはずだ。推奨する場所も距離があるのでな。それに、少しキミと話もしてみたい」
「はい?」
意識が朦朧としているため、レリック殿下の言っている意味を深く考えることができなかった。
♢
「これはなんと煌びやかな……」
「さぁ、足元に気をつけて乗りたまえ」
レリック殿下が手を差し伸べてくれた。
なんという優しいお方なのだろうか。
スタイルも良く、繋いだ手がとてもたくましくも感じた。
馬車がゆっくりと動きだす。
やたらと私に視線を向けてくるレリック殿下に対し、つい聞いてしまった。
「あの、私になにか……?」
「眠いのだろう? 着いたら起こすから、寝ていても構わない。夜通し歩いてここまで来たのだろう?」
さすがに馬車に乗せていただいているのに寝るわけにはいかない。
しかし、のんびりと進んでいく馬車にゆらゆらと揺られていたら、睡魔がさらに酷くなる。
疲労と徹夜の影響で限界である。
「う……うーん……」
ついに目を閉じてしまった。
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