第10話 神矢の決意
神矢の家から出た私はそのまましばらく駆け出した。今の自分の顔を彼に見られたくなかったからだ。だって、顔は絶対真っ赤になっていて……本音がばれてしまったということにてんぱって、やけくそ気味に告白してしまったのだ。
『あーー、もう、明日からどんな顔してシィーヤと話せばいいのよ!!』
思わずエルフ語で叫ぶと周囲の人々が何事かと見つめてくるのに気づいて、「ごめんなさい」と言って、その場から逃げ出す。
「だけど、どうかしら……私にとっては神矢の聖女様との失恋は数百年前のことでも彼にとってはまだ数年前のことなのよね……」
明日学校で会ったら神矢はどんな顔をするだろうか、少しは私を意識してくれるだろうか? 彼と付き合えたら良いなとか、断られたどうすればいいとか、重い女だと思われたらどうしようとか、考えてしまい頭の中がぐるぐるとパニック状態になってしまう。
明日から容赦しないなんていったものの正直何をすればいいかわからない。学校の友人は「佐藤さんならほほえむだけで、どんな男子でもイチコロだよ」と言ってくれたが彼に通じなかった。むしろ彼が笑うたびに胸がどきどきしてこっちがイチコロだったのだ……と悩んでいるとスマホがなった。
もう、うるさいなぁと思いながらもスマホを取り出す。
「ララノア? もう帰るから大丈夫よ。え、お父様が倒れた……?」
予想外の言葉に私の頭は真っ白になるのだった。
翌日の朝、返信が来ないことを焦った俺は、いつもより早くに登校していた。
いつもは教室で予習しているフィーネの姿はなく、朝のホームルームになっても彼女がくることはなかった。それどころか学校すら欠席してしまったのだ。
先生の「フィーネさんは家庭の事情でしばらくおうちに戻ることになりました」というだけで、細かいことは教えてくれなかった。
それも当然だ。俺はこっちではただの高校生であり、フィーネの恋人でもなんでもないただの友人に過ぎないのだから……
放課後になり、フィーネとお弁当を食べた特別教室で俺はぼーっとしていた。もしかしたらあいつは俺と会うのが恥ずかしくてこっそりと隠れてるんじゃ……とおもったがそんなことはなかった。
「フィーネ……今どうしてるんだよ……」
昨日から返信のないスマホを握りしめて、俺はあの時追いかけなかったことを悔いる。あの時追いかければ結果は変わったのだろうか……
なんで俺はいつも大事な時に一歩踏み出せないんだ。
結局俺は竜輝と徐々に仲良くなっていく雫姉さんを見ているだけで、何もせず悔しそうに見ていた時と変わっていないのではないだろうか?
嫌なことを思い出したときにガラッと扉が開く。
「フィーネか!!」
「すいません、ララノアです。やはりここだったんですね、スィーヤ様」
扉をあけてやってきたのは相も変わらず無表情なララノアさんだった。そんな彼女が今の俺にとっては救世主に見えた。
「ララノアさん、フィーネは……あいつは一体どうしたんですか?」
「それは……」
言いにくそうに俺から顔を逸らすララノアさん。だけど、俺はもうひかないと決めたのだ。
「何があったか教えてください。俺は……あいつに伝えたいことがあるんです。あいつにまた会うためならなんでもしますから!!」
「なんでも……ですか……」
ララノアさんに頭を下げる。情けないかもしれないが今の俺にはこれくらいしかできることがなかったのだ。だけど、俺の言葉を聞いたララノアさんが一瞬にやりとわらったのは気のせいだろうか?
「……わかりました。ですが、このままではあなたが再びフィーネ様とお会いすることはないかもしれません」
「え?」
新しい決意を持った俺を待っていたのは予想外の言葉だった。驚いている俺をよそに 再び無表情に戻ったララノアさんは言葉を続ける。
「フィーネ様はお父様の命令でエルフの国にかえられました。問題が解決しない限り帰ってこないでしょう」
「そんな……じゃあ、どうすれば……」
異世界へのゲートは開かれたが今はまだ政府の関係者など一部の人間にしか開かれていない。ただの高校生にすぎない俺にはどうしようもないのである。
困惑している俺にララノアさんは無表情なまま続ける。
「そうですね……神矢様ではどうしようもないかもしれません。諦めますか?」
「いやです!! 俺は……フィーネにどうしても伝えたいことがあるんです!!」
そういう俺に珍しくララノアさんはにこりと笑った。その顔はまるで計画通りとでも言いたそうでちょっと後悔しそうになる。
だけど、再びフィーネに会えるのだ。後悔なんてするものかよ!!
「神矢さまでは無理ですが、我らが世界の英雄であるシィーヤならなんとかできると思いますよ」
「え?」
「あなたは先ほどなんでもするとおっしゃいましたね。では再び英雄となって我らがお姫様をたすけていただけないでしょうか?」
「それはどういう……」
そして、俺は彼女の話をきいて……思わず驚愕の声を漏らすのだった。
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