第11話 シィーヤとフィーネ

「もう、お父様のばかーーーー!! 仮病まで使って私を呼び戻すなんてありえない!!」

「悪かったって……でも、寂しかったんだよ!! 仕方ないだろう。もう、何か月もフィーネちゃんの顔を見ていないんだよ!!」

「どうせ、あと二か月もすれば夏休みなんだからすぐに会えるじゃないの!!」


 

 エルフの里の実家に帰ったフィーネは父に無茶苦茶文句を言っていた。それも無理はないだろう。わざわざ部下を使ってフィーネに『父が危篤になった』と連絡してきて、慌てて帰ったら父はぴんぴんしており、フィーネを歓迎しやがったのである。

 まあ、並べられていた料理はあっちの世界では食べられないフィーネの好物ばかりだったので「神矢にも食べさせてあげたいな」などとおもいつつも完食したのだが……



「何がフィーネちゃん欠乏症よ!! もう、私も大人なんだからいい加減子離れしてよね」

「ごめんって!! でも、本当にさびしかったんだって!!」



 まだ情けないことを言う父を追い出して、フィーネは扉の鍵をしめる。女の子らしく可愛らしいぬいぐるみやレースのあしらわれたベッドがある可愛らしい部屋である。

 雫から見せてもらった神矢の写真を参考に書いてもらった肖像画がおいてあったり、お手製の神矢ぬいもあったりして、少し愛が重いがまあ許容範囲だろう。

 恰好も自室というだけあって、ラフなパジャマ姿で彼女はにぎっているスマホを見て大きなため息をつく。



「うう、電波が入らない……ララノアには神矢に一週間で戻るから心配しないでって伝言を頼んでおいたけど……その間、少しは私のことを考えててくれるかしら?」



 彼女のスマホには神矢との2ショット写真が写っている。スマホの操作がわからないと言って撮影してもらったものである。

 今頃学校で授業を受けているであろう彼を想いスマホの画面を愛おし目で見つめていると想いがつのってきてしまう。



「でも、神矢にガンガンいくってどうすればいいのかしら……?」



 神矢に自分の本音がばれてしまったときはあんな捨て台詞を吐いてしまったが、正直どうすればいいかわかっていないのが現状だ。

 そもそもフィーネは異性との交流の経験だってあまりない。クラスメイトやララノアに色々と聞きはしているものの実行するには恥ずかしい。彼の部屋でゆびきりしたのだってありったけの勇気を使ったのだ。



「いきなりデレデレしてもだめよね……あれかしら、抱き着いたりすればもっと意識してくれるかしら……それで……今度は抱きしめ返してくれたら……きゃーーー!! どうしよう!!」



 神矢のぬいぐるみ(自作)を抱きしめながら、神矢をどうやって意識されようかなどと考えたり、妄想している時だった。何やらエルフの里が騒がしくなっているのに気づく。



「まさか、侵入者? 魔王が倒されてここ数百年は平和だったっていうのに!!」



 驚きのあまり窓をあけて様子をみようとしたフィーネの視界に入ったのは予想外の光景だった。一匹のワイバーンに乗った二人組の男女がこちらにむかってきているのだ。

 そして、その二人組には見覚えがあった。



「シィーヤとララノア!? 一体なんで?」



 そう、ワイバーンに乗って必死な顔をしているのは今頃学校で授業を受けているはずの神矢で、その後ろで涼しい顔をしているのはフィーネの護衛のララノアだったのである。

 そして、神矢と目が合ったかと思うと……



「ワールドエンド!! あそこに頼む!!」

「シャーー――!!」



 神矢の言葉に呼応するようにちょっと厨二臭い名前のワイバーンが叫んで加速していく。そして、理解する。これが彼のスキル『万物の翻訳者』なのだろう。

 そして、ワイバーンはそのままこちらへと向かってきたと思うと……



「うおおおおお!!! フィーネ、後ろに下がれ!!」

「風よ、我を導きたまえ!!」



 悲鳴にも近い声をあげてワイバーンが窓にぶつかる前に空中で旋回し切り返していき、ワイバーンから飛び降りた神矢が窓へと突っ込んでくる。後ろでララノアが魔法を使って空を飛びながらピースをしているがそんなことはどうでもよかった。



「よかった……また、会えた……」

「え? なんで、神矢が……どうしよう……今すっぴん……パジャマも可愛くない……」



 状況が飲み込めずにフィーネの頭はパニック状態だった。こんなところで会うとは思わなかったのだ告白してからどう接するかも考え中だったし、今はパジャマな上にすっぴんである。

 せめて、彼の前では一番かわいい状態でいたかったのに……そして、その原因はわかっている。フィーネは後ろで無表情に私たちを見ているララノアを睨んで文句を言おうとした時だった。



「フィーネ!! 話したいことがある!!」

「ふぁい!!」


 

 神矢がフィーネを離すまいとでもするように肩を抱いて、こちらを真正面からみつめてくる。珍しく真面目な顔に見惚れてしまったことと、てんぱっていたことにもあり、噛んでしまった。



「フィーネ……俺はお前のことが大好きだ。だから、結婚してくれ!!」

「はぁぁぁ!?」

「フィーネちゃん、大丈夫か!! 侵入者が……」



 神矢が告白し、フィーネが予想外の言葉に素っ頓狂な声を上げるのと、心配して兵士をひきつれてやってきた父がやってきたのは同時だった。



 そして、一瞬時が止まった。



 状況がわからずみんな無言の中ララノアが無表情のまま爆笑している声だけが響くのだった。


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