第2話 思考と能力の差って?

カイトは悩んでいた。


気に入ったBARを見つけたのだが、まさか探偵が常連客とは…。前回はするっと抜けて帰ることが出来たが、次に行って泥棒ってことがバレたら困る。


『BARに行くか、もう行かないほうがいいのか、どうしようか』


そう思いながら、すでにBARのカウンターにいるカイト。スリルが苦手なら泥棒なんてしない。BARのメリットが高いから来ている。そんなもんだ。


『もしかしたら、探偵側の情報から何か便利なことがあるかも』


そんな都合のよいことすら考え始めている。お金の存在しないBARでは支払いの工程がなく、前回のように引き止められることなく帰ることが出来るため便利だ。


『お金がある世界も、ツケ、請求書、電子決済なんてものもあり、あんまり変わらないな』


そう、カイトはお金がある世界から迷い混んできたのであった。いろいろ気になりながら世界に日々馴染んできている。そんな違いを楽しんでいると


「この間はどうも」


振り向くと、そこにはクロがいた。ちょっと驚きながらも怪しまれないようにと、


「この間は語ってしまいました。酔ってたみたいで…」


「いえいえ。感謝してたんですよ。カスミ、あっ、この間一緒にいた女の子なんですが、感動してましたよ。いつも、こんなことがあると愚痴ばっかりだったんですが、文句もそこそこに出来ることをしようって。」


「たった数分でこんなに効果があって…、講演会をお願いしたいくらいですよ。カスミもまた聴きたいって、いつBARにくるかなって言ってますよ。すでにリピーター候補も付いちゃいましたし。どうですか?講演会。」


クロがカウンターに座り、笑いながら話している。


笑えない…。泥棒が講演会?ないない!、みたいな話をしてしまいそう。カイトは講演会の壇上に立ち、老若男女の泥棒達に教鞭をとる自分の姿を思い浮かべながら、ちょっとニヤけていると


「謙虚って、悪くなることあるんですね。」


クロがおもむろに聴いてきた。ニヤけた顔をすっと戻し、


「意外なんですが、そんなことがあるんですよ。謙虚っていうのは…」


「ちょーーーーっと、待っーーーたぁ!!!」


勢いよくカスミが入ってきた。BARへの来客としては異例の登場だ。


「ちょっと待つです。私も聴きたい。」


何の話か言っていないが喰い付いてきた。お皿の話でもしていたらどうするつもりだったんだ。


カスミが前のめりに座り、こっちを見ているのを見てBARのマスターは笑いを堪えている。


「謙虚の話だったよね」


「これもの差があると表れることなんだけど、本人はと思っていることを周りからと見られているときに、本人が何かを断ったり遠慮すると謙虚の印象が変わるときがあって。」


「本人は本当に出来ないと感じていたり、いつも自分ばかりやらされていると思っていて、このとき周りはというと、出来るくせにやらないとか、サボっているように見えて、お互いにモヤモヤしてしまう。」


「何かの仕事やら役割を本人がしようが、周りがしようがストレスが生じる結果になるんよね。」


「なるほどです!!出来るのにしない人います!」


「そうそう。結構いるんよね。大事なのは本人は本当に無理と思っているのかもしれないってことなんだけど、見えないから解らないんよね」


「面白いです。そんなふうに見たことないですね。ただ、悪くしようとしていないのは伝わってきていて。何でだろうって思っていたんです。」


そう言ってクロが同調してくれる、カスミが前のめりに聴いてくれる。有難い。ただ、泥棒がいったい何を偉そうに話しているんだって恥ずかしくもある。


楽しいときは過ぎ、不思議と今日も正体を知られることなく過ごせたが近いうちにバレるだろう。何か気づかれている。そんな気がしながらカイトはBARをでた。



つづく

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お金が存在しない世界のバーで、泥棒と探偵が会話する話って? 難波とまと @NAMBA_TMT

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