お金が存在しない世界のバーで、泥棒と探偵が会話する話って?
難波とまと
第1話 泥棒がバーで探偵に見つかる?
ここはお金が存在しない世界。
じゃあ、物の移動や交換は物々交換なのか?
いや、そうではない。
この世界での価値の評価は時間。
善いことをすると翌日の時間が増え、善くないことをすると翌日の時間が減る世界。
そのため買物をするときに支払いの工程がなく、勝手に持っていくようにみえる。そんな不思議な世界で、お金が存在する世界から迷いこんだカイトがBARに呑みに行ったときの話。
「クロさん、今日はカスミちゃんは?」
BAR「クロの巣」のマスターが常連客のクロに話しかけているのをカイトはカウンターで呑みながら聞いていた。
「もうすぐ来ると思うよ。さっき僕の居場所を聞いてきたから。」
「そうなんですね。探偵の助手としては探偵を探すのも大事な仕事の一つですね」
マスターがいつも逃げるようにBARに来ているクロに目を向けながら応えている。どうやらカスミという人は探偵助手として、ここにいるクロの探偵の仕事を手伝っているみたいだ。
今、BARにはマスター、クロ、そしてカイトの3人がいる。探偵と聞いてカイトはお店を出ようかと考えていた。それはカイトが普段泥棒をしているからだ。
『この一杯を飲んだら帰るかな』
そう思いながらいると
「クロ、見つけたです!」
カスミが入ってきて、何やら言いたそうにしながらクロの横に座ると
「クロ、聴いて!!」
「さっき、今度美術展をする会場の泥棒対策の打ち合わせがあって、こんな人がいて会議が長くなって…。」
「その役割、私じゃなくていいんじゃないですか?、防犯のイメージって共有できますか?、防犯ってしなきゃいけないんですか?、中途半端なんですよね、と話す人がいて、みんな困ってしまって。」
カスミが次々と話しだしていて、ちょっと聴き耳を立てていたこともあってカイトは帰るタイミングを逃していた。
「代案が出ないと困るよね」
「そうなのです!、案を出してこないの!!」
クロがなだめるように話しているが憤りは治まらず続いている。聴き耳を立てているのを感じたからかカスミがカイトに話しかけてきた。
「どう思うです?」
「カスミ、急に振ったら迷惑だよ。」
クロが止めに入るが構わずに続ける。暴走とは、まさにこんな感じのことを言うのだろう。
「きっとアンチです。上手くいくのが悔しいんです!」
「その場の空気、わかります。目に浮かびます。」
つい応えてしまい、逃げるタイミングをすっかり逃してしまった。『泥棒だとバレないといいのだが…』
「持論なんだけど…。アンチの人も困っているのかも。」
「???」
カスミとクロが不思議そうにカイトを見ている。カイトは話を続け、
「その人の思考と能力に差があるのかなって。好きなことと得意なことって合ってないこともあって、得意なこと(能力)は周りからも認識されてることが多いんよね。自分の思っている姿(思考)と周りから思われてる姿(能力)に差が出ると、そんな感じになりやすいよ」
「例えば、本人は出来ますって思っているけど能力は足りなくて、周りからは出来ないと思われていると、本人は任せて貰えないが出来ると思ってほしいから気を引くことを言ってしまうことがあったりする。さっきの話みたいに。」
「気を引くことって難しいんよね、みんなとは違うこと言わないとって思うから。的外れになるリスク高いよね」
「また、周りからすると、任せても尻拭いさせられる思いがあって任せないから、本人は除け者にされてるって感じるし、お互いにモヤモヤってなってるのかなって。」
「えっ!! ほんとっ、そんな感じだったです!」
「もしかして見ていたです?」
「思考と能力の差って、人それぞれなんですよね。本人は差があることに気づかないこと多いしね。」
「ちょっと、その人が気の毒になったきたです。変なふうに見られないように謙虚にするです。」
カスミの憤りが治まってきた。
「謙虚もやりすぎると同じような差の話があってね。」
「え?、何か問題になるです??」
「それは次に来たときに話しますね。そろそろ出なきゃ」
そう言ってカイトはBARをでた。
『良し!無事に脱出できた! あれ?何か約束をしたような…』
つづく(次は謙虚の話)
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