魔王オディウム再臨

 両手の平に紋章を浮かべたゲオルクは、すさまじい波動を全身から発しながら術式スペルを唱えていた。


「まずいわ」唖然としていたレインが我に返った。


 血の紋レイン・イン・ブラッドが完成した。それはつまり、魔王オディウムの復活を意味する。


 このままでは前世の命と引き換えに滅ぼしたはずの肉体が、魔界から呼び出される。


「そうはさせない」


 レインは持てる最大級の攻撃魔法をゲオルクへと放った。


 特大の火の玉がゲオルクに直撃する。


 だが、ゲオルクを護るように広がる波動は、紅蓮の炎がその主へと届く前に、手前で弾いて爆発させた。


 レインはコロシアムを駆けていく。


 もうなりふり構ってはいられない。


 小太刀に強化魔法をかけて、ゲオルクを直接叩き斬ることにした。


 波動に護られて、呪文を詠唱し続けるゲオルク。


 動かない内に、すべてを終わらせる必要がある。


 魔法で強化した小太刀を、ミラグロのナンバー2に振り下ろす。


 ――その刹那、激しい光とともに、レインの一撃が弾かれた。


 轟音――すさまじい衝撃とともに、コロシアムの中心からパルスが発せられる。


 あまりの衝撃に、レインは小太刀を持ったまま吹っ飛ばされた。


 体はあちこちを打ちながら転げまわり、視界は洗濯機の中にでも入れられたかのように目まぐるしく回転した。


 コロシアムの壁に背中を強打した。レインが呻く。


 向こう側では激しい土煙が上がっている。


 空気が重くなっていく。


 刹那、土煙の中からすさまじい勢いで無数のツタが伸びていった。


 それらは生き残った人々を次々と貫いていった。体を串刺しされた人々は、強酸でその肉体を溶かされて気味の悪い植物に吸収されていく。


 レインが顔を歪める。


 ――恐れていたことが、とうとう起こってしまった。


 土煙が晴れていき、徐々に尋常ではない巨体を持つ魔物がその姿を現していく。


 巨大な、ラフレシアを思わせるグロテスクな花。その中央から竜の首が伸びている。


「久しぶりだな」


 エフェクターがかかったような声。声の主は邪悪な微笑を浮かべていた。


 竜の一瞥――凶悪な双眸そうぼうがレインを睨む。


 ――魔王オディウム。


 そこには何年も前に滅ぼしたはずの、宿敵の姿があった。

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