最後の一点
――その頃、漆黒の森ではエリックたちに危機が迫っていた。
ケリーの中継に見入っていると、地上にいる帝国兵たちから悲鳴が上がりはじめた。
「おい、このタイミングで不意打ちはねえだろ!」
「俺じゃねえよ、バカ皇帝!」
辛辣なケリーの反論。
悲鳴は地上の方から聞こえてきた。
ダークエルフたちにやられたのかと思ったが、地上近くを変な機械が飛び回っている。
「あいつらもお前の発明品か」
「知らねえって。むしろ兵器はミラグロの方が得意分野だろうが」
地上では、小型のガトリングガンを積んだドローンが飛び回っていた。
小型とは言うものの、その威力は驚異だった。
大量に射出される弾丸で、次々と屈強な男たちが倒れていく。
当初はどちらかの軍勢に属する兵器かと思われたが、ドローンはダークエルフだろうが人間だろうがお構いなしに撃ち殺していく。
剣と魔法の世界しか知らない帝国兵たちは、瞬く間に遠方から放たれる弾丸で体を穿たれ、命を落とした。
「クソ。中継映像なんか見ている場合じゃねえぞ」
エリックは帝国兵たちのもとへと飛んで行き、空中のドローンを叩き切った。
ドローンは間抜けな音を発してから地面に落ちて爆発する。攻撃さえ当ててしまえば、それほど耐久力があるわけでもないようだった。
だが、問題は数だった。
ドローンはショッカーの戦闘員並みにあちこちから出て来る。
剣で切っても、魔法で撃ち落としてもゾロゾロで出て来るのでキリがない。
先ほどレインが行ったプレゼンテーションを見る限りでは、ゲオルクの目的はここでたくさんの血を流すことのようだ。そうなるとこのドローンはゲオルクの差し金である可能性が高い。
機動力の高いエリックはドローンに対しても問題なく闘えるが、多くの者は剣や弓、魔法でしか闘えないために空から降ってくる弾丸でハチの巣にされていく。
知らぬ間にダークエルフが弓矢で援護してくれているが、それを差っ引いても苦戦は免れない。破壊力があまりにも違い過ぎた。
エリックは焦っていた。
先ほどエリスが有罪判決を受けた。
一刻でも早くミラグロへと戻らなければ、彼女の処刑が執行されてしまう。
それだけは何が何でも防がなければいけなかった。
同時にプレゼンテーションを行った少女がティムの生まれ変わりというのもいまだに信じられなかった。死んだら終わりが当たり前の世界で、そんなことがありえるのだろうか?
あまりにも情報量が多く、混乱していた。
いずれにしても早く闘いを切り上げて、ミラグロへと戻らないといけない。考えることはいつだってできる。
ふいに空中で声をかけられる。
「皇帝、あなたはミラグロへと戻って下さい」
声のした方を見ると、ドラゴンに乗った帝国兵たちがいた。
ミラグロの抱える、機動戦竜隊であった。
機動戦竜隊のメンバーは戦闘能力と知性に長けた者しかなれない、エリート中のエリートだ。
「ありがとう。しかし、このイカれた機械を破壊しないと、俺たちごと皆殺しにされてしまうぞ」
「ご心配なく。私たちはあんな機械ごときに負けることはありません。皇帝は何人かを引き連れて、ミラグロで皇妃様を助けて下さい」
「その作戦、俺も手伝うぜ」
機動戦竜隊との会話に、拡声器で増幅されたケリーの声が割って入る。
上空を見ると、でかい飛行機がスズメバチのようにホバリングしていた。
「この飛行機を使えば、結構な人数を運ぶことができる。すばやく人を選んでもらって、皇帝さんごと乗せて運んで行ってやるよ。そうすればあのイカレ政治家を倒せるんだろう?」
エリックは機動戦竜隊の兵士と顔を見合わせる。
どうしたらいい?
目でそう訊くと、男は「行って下さい。民のために」と言った。
「すまない」
エリックはそう言うと、ミラグロへと戻る決断をした。
もう悩んでいるヒマはない。
地上ではドローンと人間、そしてダークエルフが血みどろの死闘を繰り広げている。
徐々に押し返しているとはいえ、この勢いで死者が出るとなると、
その前にゲオルク本体を叩くしかない。
「よっしゃあ、じゃあ人員を決めてこの飛行機に乗り込め」
スズメバチ型の飛行機は近いところに着陸しにいった。
珍しく脳内が冴えわたる。ミラグロへと戻す人材は瞬時に決まった。
「すまないが、ここを頼む」
「承知しました」
男は敬礼すると、ためらわずに戦禍の中へと飛び込んで行った。
「生きてくれよ」
男の背中を見守る。彼にもきっと家族がいるはずだ。
「さて」エリックは気を取り直す。
「皇帝みずから、ミラグロ史上最悪のクーデターを取り締まりに行くとするか」
自分へ言い聞かせるように言うと、着地した飛行機を目指した。
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