オディウムの潜伏
魔王オディウムの脳裏に蘇る悪夢。
忘れもしない。あの青年が起こした自己犠牲の一撃。
魔王オディウムはティム・モルフェウスとともにこの世界から消え去った。正確に言えば、消し去られた。
サクリファイス・プロージョンと呼ばれた一撃で、自身の体は跡形も無く焼かれた。
想像を絶する高熱。太陽の中に放り込まれたような灼熱で、その肉体はみるみると焼かれていった。
もう二度とあんな恐怖は味わいたくない。
肉体が焼かれる中、魂だけで逃げ出した。
王都ミラグロの空に上がるキノコ雲――皮肉にも、この世の終わりにも見えた。
紅く染まった空を浮遊して、ケタ違いの爆発から逃れた帝国兵たちの軍団があった。
その陣頭指揮を執っていたのは、ゲオルク・ベーゼ。ミラグロの軍事部門の責任者だった。
とうに全盛期を過ぎたその肉体は、つけ入るのが容易に見えた。
『かりそめの肉体としてはちょうどいい』
魔王オディウムと呼ばれた魔物の魂は、ゲオルクの肉体へと飛び込み、元いた魂を叩き出した。もっと言えば、肉体を乗っ取った。
ゲオルクはわずかな間だけ体を震わせて、一見は元に戻った。
周囲の帝国兵は、誰一人としてゲオルクの中身が入れ替わっていることに気付きなどしない。
戦場では精神的な異常など腐るほど起こり得る。ただ一瞬だけ狂ったように奇声を上げてすぐ戻ったゲオルクは、数多の精神異常者に比べればむしろマシな方であった。
だが、実際に起きていることは深刻だった。
ゲオルクの肉体を手に入れたオディウムは、表面上は自身の死を歓喜するフリをしながら、実際にはその肉体を復活させようと画策していた。その手段として採用したのが
その
後はその呼び出した肉体に「乗り込む」だけで、世界を混沌へと陥れた魔王の復活は成立する。
軍の指揮権を持つゲオルクは、瞬く間に奸計と知略で出世を成し遂げて、国のナンバー2にまで昇りつめた。
権力を握った
作戦には思いのほか時間がかかった。
自らの分身を作り出し、各地で自由のために闘おうと息巻くバカをかき集めた。
革命や暴力にロマンを見出し、それによって引き起こされる被害や惨劇をまったく顧みない、救いがたい愚か者――そんな奴らが
六芒星の点にあたる各地では、なるべく大規模に血が流れる必要がある。たくさんの死者が出て、溢れるような悲嘆、怒りが巻き起こらないといけない。
それらの一つ一つが魔王オディウムの養分になる。
血が流れれば流れるほど、人々が怒り悲しむ感情を増すほど、
すでに5地点の練成は成功した。後はここ、王都ミラグロのコロシアムで混沌を起こすのみ。
その計画が――
思い描いた未来が、揺らごうとしている。
――あの男が帰って来た。
いや、男ではない。
ダークエルフの女に生まれ変わって、また自分を殺しに来た。
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