待ち伏せ
「懐かしいな、おい」
皇帝エリックは自身の搭乗するドラゴンを撫でる。
ドラゴンは帝国兵を引き連れ、大空を悠々と飛んでいた。
ドラゴンの機動力は高い。大空を高速で飛べるため、その気になればあっという間に漆黒の森へと到達することができる。
エリスを攫ったダークエルフたちを無双状態で成敗してもいいところだが、皇帝がじきじきに一人で切り込んでいくなどとありえないとゲオルクに一喝された。
ダークエルフたちも団結すれば強力な力を発する。いくら魔王オディウムを討伐した英雄とはいえ、一人で何百といるダークエルフを相手にすれば、無事で済むと考える方が難しい。
さすがのエリックでもそれを理解できたのか、自身で率いる形で全軍を先導することにした。それでさえも前代未聞には違いないが。
空を飛んでいると、いよいよ漆黒の森が近付いてきた。
地上を見やると、帝国軍の兵士たちにも緊張感が増しているのが分かった。
これから戦争が始まる。
もう二度と無いだろうと思っていた、全身が冷たくなる感覚が戻ってくる。
でかい闘いの前にはいつも全身がスーっと涼しくなる。ある者はこれを武者震いと呼ぶようだが。
エリスは単に皇妃というだけではない。ティム・モルフェウスから託された大切な宝物でもある。
魔王オディウム討伐後、エリスは本来ティムの妻として王家とは違う世界を生きているはずだった。それがどういった運命のいたずらか、今は皇妃であり、この国を統べるパートナーになっている。
エリスはティムの形見でもある。だから彼女だけは命に代えてでも守らねばならない。
エリックは密かにそう思っていた。
「さあ、これから闘いがはじまるぜ」
そうつぶやいた刹那、ふいに強烈なパルスが大空へと広がる。
衝撃に、思わずドラゴンから落ちそうになる。ドラゴンも空中で強風に煽られたように身体をのけぞらせた。
「なんだ、おい」
遠くの空からやたらと武装した飛行機が飛んでくる。
両翼にはプロペラが高速で回り、空中でホバリングしている。
一言で表すなら、いかにも悪そうなナリをした乗り物だった。
「まさか待ち伏せされていたとはな」
エリックは誤算にも関わらず、どこか嬉しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます