囚われのエリス
「ははひほははひははい!」
口に嵌められたセシュターのせいで「私を放しなさい」という言葉は意味をなさない言葉になる。
セシュターとはSMで使用されるボール型の猿ぐつわだ。顔をベルトで固定し、口にピンポン球ぐらいの球体が嵌められ、そこに空いた穴から息ができる。
だが、空気が吸える以外は口が開いたままになるので、喋れないばかりかヨダレが垂れてきて、かなり屈辱的な姿になる。
エリスはゲオルクの配下の者たちに捕らえられていた。屈強な軍人たちで、全身は無駄にビルドアップされた筋肉で覆われている。
男たちは無機質な表情をしていて、軍人というよりは機械めいた表情をしていた。一言で表現するなら、その表情からはまったく感情が読み取れず、暗い目は囚われのエリスを冷たく見下ろしている。
エリスの口に嵌められている球はマジカルセシュターと呼ばれるもので、口に嵌められたセシュターの球が魔法を封じ込めるだけでなく、魔力を吸い取っていく。エリスが喋ろうとすればするほど、その強大な魔力は球に吸い取られていく。
皇妃用のドレスは剥ぎ取られ、裸の上にぼろきれめいたローブを着せられていた。
半ば扱われ方で自身の命運を突きつけられたエリスは、なんとかこの苦境を脱しようとしていた。
だが、もともと肉弾戦が不得意で魔法をメインで闘ってきた元英雄は、手足の自由を奪われて魔法を封じられれば何もできない状態だった。両手は後ろへとやられて、手錠で繋がれている。非公式とはいえ、元英雄に対する扱いとは思えなかった。
「|はなははひ、ほへはほはっははじはふほひははひほ《あなたたち、これが終わったら覚悟しなさいよ》」
男たちを脅しつけるが、あいにくエリスの真意は届かない。男たちは機械のように遠くをじっと見ている。
――大丈夫。きっと私は大丈夫。
エリスは自分に言い聞かせるように心中ひとりごちた。
皇帝であり夫であるエリックが、このような横暴を見過ごすはずなどない。
彼は自分を救出して、不届き者のゲオルクに相応の罰を与えるだろう。希望観測的に、そう考えた。
だが、その一方で根拠の無い不安があったのも事実だった。
ゲオルクの背後には、もっと邪悪な何かがある。
それが何なのかは不明だが、その存在がひたすら不気味だった。
――エリック、早く助けに来て。
エリスの願いは、まったく違う場所で実現が試みられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます