血の紋
「あのボンクラめ。やはり何も見えてないわい」
回廊を進むゲオルクは肩で風を切りながらミラグロ城の回廊を歩いていた。
気絶させたエリスは別棟で捕らえている。明日になれば異端審問会でエリスは皇妃の位を剥奪され、連帯責任でエリックも皇帝の座を下ろされることになる。王家の不祥事は全員が「落とし前」をつけるよう、前もって法整備で明記してある。
執務大臣は地味な役職名ながら法務大臣の機能も持つ。平たく言えばすべての領域に干渉することができる上に、執務大臣である自身の承認でことを進めることができるため、事実上この国を思うように動かすことができるポジションにある。
よく見れば皇帝よりも強大な権力を有しているわけだが、ゲオルクは組織の編成や法務の整備を少しずつ水面下で行い、非常に狡猾にそれを成し遂げたため、これらの動きについて適宜報告を受けていたものの、エリックの頭脳ではその奸計を見抜くことができなかった。流れだけで見れば、アホな成金社長が外資の会社に社長の座を蹴落とされる構図に似ている。
ゲオルクが邪悪な笑みを浮かべる。後はエリスとエリックをどう引き離すかを考えるだけだ。
魔王オディウムが亡き今、王都ミラグロを統べる者が事実上世界の覇者になる。
そして、ゲオルクにはとある邪悪な目的があった。
「もう少しだ。もう少しで、
ゲオルクの口角が上がる。
返り討ちとなったアシュラミド・パザエフは自身の血でその完成にいくらか寄与したが、それでもまだ足りない。
漆黒の森に血の紋を刻むにはより多くの血が流されなければいけない。
――
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