回想6

「さて、やるか」


 ティムが搭乗するドラゴンを撫でる。


 ドラゴンは何かを察したように唸って答える。


「ありがとよ。最後にひと仕事だ」


 結界に守られたエリックを見やる。


「エリスとは話ができたか」


「ああ、もう


 そう言うと、結界の球に包まれたエリックと彼の乗るドラゴンが、強制的に遠くへと追いやられていく。


「おい、嘘だろ?」


 抗議するエリック。だが、ティムは答えずに笑っていた。


 その笑顔を見て、エリックは言いようのない寂しさと悲しみを感じた。


 ――お前、まさか一人で死ぬ気か。


 疑念が音声になる前に、言葉ごと遠くへと飛ばされて行く。どうやら移動魔法の原理を利用したスキルのようだった。


 ティムと一緒に死ぬ覚悟であったエリックは抗議の声を上げる。


「おい、ここまで来てそりゃねえだろ。俺たちは闘う時も一緒だし、勝つ時も死ぬ時も一緒だ。そうだろう?」


「悪いな。エリスを頼む」


 ティムが悲しそうに笑った。


「バカヤロー!」


 ドラゴンごと、高速で吹っ飛ばされる。


 紅い空に溶けていく叫び声。ティムの姿は豆粒のように小さくなっていく。


「なんでだよ……」


 エリックは自身の無力さに歯噛みした。


 やるせない気持ちとともに、涙が出てくる。


 遠い空でドラゴンに乗った戦友。背中には、覚悟と哀愁が滴っていた。


 エリックはその映像を、いつまでも忘れまいと思った。脳裏へ焼き付けるように、もう会うことも無いであろう友人の後ろ姿をずっと眺めていた。


「……そうだよ。俺はバカ野郎なんだよ」


 ティムが自嘲的に笑う。


 上空から視線を遣ると、悪趣味でバカみたいな大きさをした花が咲いていた。


 ――魔王オディウム。


 おぞましいラフレシアの花びらから、竜の首が生えている。


 本当の姿を現した魔王は、身の毛もよだつような咆哮を上げていた。


「さあ、いくぞ」


 ティムを乗せたドラゴンが、凄まじい勢いで地上へと降っていく。


 そのままオディウムの正面まで来ると、傷付いた竜の首がすさまじい声量で威嚇する。


「よう、バケモノ」


 ティムは不敵に笑った。


 ティムたちの体が青白い光に包まれていく。


「ちょっとばかり野暮用があってな。悪いけど付き合ってくれるか」


 まばゆい光が紅い空を照らしていく。ティムを中心に、空の色が変わっていく。


 オディウムが慌てたように咆哮を上げ、その口から光を発しはじめる。口から発射される放射性物質で、ティムを焼き尽くすつもりのようだった。


「まあ」ティムは構わず続ける。


「行き先は地獄だけどな」


 刹那、ティムを中心に同心円状の光が広がっていく。


 世界から音が消える。


 束の間の静寂はティムの声によって破られる。


 ――自らの命と引き換えに放つ、最後の一撃。


「サクリファイス・プロージョン!」

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