第2話 友だち

 もみじは教室にもどると、空いている未亜の席を見た。どこに行ったのか、あのまま、まだ戻ってきていない。

 数学の先生は授業を中断して教室にあるインターホンで誰かと話している。その間、私たち生徒はノートを書き込んだり、教科書をぱらぱらとめくったりして、先生が授業を再開するまで待っていた。

 おそらく、職員室かどこかにつながっているのだろう。教室を出て行った未亜のことを伝えているみたいだ。

 空き時間になっていた先生たちがかわいそうだ。せっかく自分の仕事ができる時間なのに、未亜が教室を出て行ったきり戻ってこない、という連絡を受けて探しに向かわなければならない。

――馬鹿な子だ。こういう迷惑がかかっていることわからないのだろうか。

 もみじはトイレに行かせてもらうときも、戻ってきたときも先生にきちんと伝えた。当たり前のことだと思うけど。


 結局、その時間、未亜は戻ってこなかった。休み時間になったら、どこからか戻ってきて自分の席に座った。

 もみじは今まで、どうでもいいと思っていたけど、先ほどのトイレの件からこの未亜について興味を持った。

――何考えて生きてるんだろう?

――友だちはいるんだろうか?

――家族はどうなんだろう?

 

 未亜を遠くの席から目で追ってみた。

 未亜の席は廊下側の一番後ろだ。教室のドアのすぐ近くの席である。未亜のような子――勉強がすきじゃない子――にはうってつけの場所だろう。

 未亜の近くには数人の子がドアのところに集まっておしゃべりをしている。だけど、未亜はその子たちとかかわることはなく、机に肘をついてだらーとしている。

――友だちいないのか?

  それならそれで、いいけど。当然と言えば当然だ。

 廊下から未亜に話しかけて来た子がいた。未亜に声をかけると未亜はその子の方に体を向けて、笑った。話しかけて来た子も、印象的にはあまりいい雰囲気の子ではない。制服の着方で感じた。シャツのボタンを一つ多く開けて、シャツの裾はスカートの腰のところで膨らませてふんわりと着ている。

 類友か……。


 未亜がちらちらその子と私の方を見てきた。私は視線をそらして、自分の席から立ちあがって歩き出した。

 自然と向かったのは、その未亜のいる教室のドアだった。


筆者 五月 駅前より。

読んでくださってありがとうございます。

応援マークをくださった方、この場を借りてお礼を言います。ありがとうございます。


さて、このお話は書き進めながら、過去の掲載文の中にも修正を入れています。特に「風待山」という章は後から挿入している部分です。

まだ、読んでいないようでしたら、それらの章もお読みになっていただけると嬉しいです。 

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