別章
風待山 2
智恵子おばあちゃんと散歩に出かけたとき、この町のことをいろいろ教えてもらった。
家の裏手に大きな山があるのは知っていたけど、この山についておばあちゃんが教えてくれたことは私の心の中に疑問を残した。
この山は「風待山」という。
名前だけだととても素敵な印象を持つけれど、おばあちゃんの話を聞くと、その印象はがらりと変わる。
なんでも、その山には死んだ人が登って、このまちを見ているんだということだ。
「おばあちゃんのお父さんもお母さんも、もう亡くなってしまったから、きっとこの山に登って私たちを見ていたよ」
智恵子おばあちゃんはそう言って風待山のてっぺんを見上げた。
「でもね、たぶん、もういないと思う。しばらくそこで私たちを見ていたけど、いつまでもそうしてられないもんね、もう天国へと風に乗っていったと思うよ」
家から学校までの道を二人で歩いていると、学校へと向かう道とその反対方向に続く坂道のところに石塔が立っていた。
「ここを登っていくと風待山だよ」
智恵子おばあちゃんはその石塔の前で足を止め、胸の前で手を合わせて、頭を下げた。
おばあちゃんの顔を覗いてみたら、口が少し動いているのが見えた。何か言っている。
「……ように」
死んじゃったお父さんやお母さんにお願いをしているんだろうと思った。
――なにをお願いしてるのかな?
顔を上げたおばあちゃんに訊いてみた。
「そりゃ、いろいろさ。さっきは言わなかったけどね、あなたのおじいちゃんはまだ山にいるような気がするの」
――おじいちゃんに願いは届くかな?
――わたしの願い。
つばきはこれから毎日、学校へ行くとき、ここでお願いを言おうと決めた。
――私の願いは一つ。
智恵子おばあちゃんの顔がちょっと怖かったのは気のせいかな。
お祈りをしているおばあちゃんの顔を覗いたとき、私、ちょっと怖いと思ったんだ。
「つばきちゃん。一つ大事な事を言ってなかった」
智恵子おばあちゃんは諭すように言った。
「自分の幸せを願ってはいけないよ。それを願うとね、おじいちゃん、あなたを守ろうとして天国へ行けなくなっちうじゃない」
−−確かにそうだ。
じゃあ何を願えばいいんだろう?
幸せを願ってはいけないって……。
おばあちゃんは何を願ったんだろう?
怖い顔してたけど……。
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