第4話 犯人
ゴミ箱に本を捨てた。
美智子が休み時間によく本を読んでいるのを見た。静かに一人で本を読んでいるのは周りを遮断しているのか?
わたしのことは相変わらず、見て見ぬふりをして、たまに話しかけてもよそよそしい。
私は休み時間になると教室から出て、前のクラスでつるんでいた子たちと体育館にいってステージの裏にある器具置き場でしゃべっていることが多かった。
みんな、新しいクラスになってからも「つまらない」とか「気に入らない」と愚痴を言い合って時間をつぶしていた。
今思えば、そうなるのも全部自分たちに問題があるからなのだが。
そういうことを言うことがかっこよかったし、満足しているなんてことはつるんでいる仲間には言えなかった。言ったら馬鹿にされるに決まってる。
だんだんそんな毎日が本当の意味でつまらなくなって、体育館に行くのをやめた。教室でクラスの子たちがなにか話したり、ふざけ合ったりしているのを見て、いつか私もだれかに声をかけられるんじゃないかと淡い期待をしていた。
ある日、あの副島君が私のところに来て「委員会の仕事を一緒にやってくれないか」と声をかけてきた。副島君もわたしも同じフラワー委員会だったが、私はまったくそんなことに関心もなく、委員会の時間も先に下校したりして出たことはなかった。
「ハウスにある苗を花壇まで一緒に運んでほしいんだけど」
副島君はぼうっと肘をついて教室を眺めていた私に言った。
「は?」
――何言ってんだ、こいつ。
私はだれかに声をかけられるのを待っていたくせに、本当に声をかけられるとどう反応していいか困った。
「ひとりじゃ無理だから、来てよ」
副島君はもう一度、私に言ってきた。
「私がやるわけないじゃん」
ついそう言ってしまった。
副島君は「もう!」と言いながら教室を出て行った。
隣で美智子がそれを聞いていたのか、本から目を離して私の方をちらっと見た。その顔が私を責めているように見えた。
――なんだ、おまえ、文句ありげに見てくんな。
前からこの子のことが嫌いだったが、今の副島君とのやりとりを責めたように見たとき、私は確信した。こういう子とは一生交われないだろうなと。
――人ががんばろうとしてもどこか見下したように見ている。
――自分はいい子で、私みたいな人とは違うと決めつけている。
その日の二時間目は移動教室だった。たしか音楽だったと思う。みんな教科書やペンケースをもって教室から出ていった。私は準備をしているふりをしながら、みんながいなくなるのを待っていた。
チャイムがなって二時間目が始まった。私だけの教室はしーんと静まりかえっていた。わたしは美智子の机の中から、美智子が最近よく読んでいた本を取り出した。表紙の厚い本で、きれいなカバーがついていた。
中身まで見なかったが、表紙カバーの絵を見ると男子が読むような本だった。
――こんな本のどこが面白いんだ?
私はその本を教室のゴミ箱に捨ててから教室を出た。だれも見ていなかった。
二時間目が終わって、休み時間から騒ぎになった。
「美智子ちゃんの本がないの」
「机に入れておいたのに」
私が捨てた本は副島君の本だったことを私は後から知った。
副島君には悪いことしたな、と思ったが、美智子の泣きじゃくっている顔を見ることができたのは愉快だった。
――副島くんは今頃どうしてるのかな。
汗ばんだ額をぬぐうこともできないまま、さとみはベッドの上で考えていた。
――結婚して幸せな暮らしをしているだろうか。
あけみが隣の部屋でテレビを見て笑っている声がする。
ゴミ箱に捨てられているのは今の私も同じだ。
さとみの目から涙がこぼれた。
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