第3話 副島

 二年生になってクラス替えがあった。

私は一年生の頃から学年じゅうにある意味有名になっていたと思う。

 関わりたくない、と思われている女子だっただろう。

 一年の時の担任は若い男だった。何をやるにしてもさわやかに、みんなで力を合わせて、という感じで進めていくので、私には鼻についたから思いっきり反発していた。

 合唱の練習でクラスみんなで朝集まるとか、マラソン大会で応援の横断幕を作ろうとか、どうでもいい。

 そいつとよく廊下で言い合いをしていたから、学年のみんな私のことを知っている。

 クラス替えって、そういうめんどくさい生徒を見つけ出して再配置するためのものだと思う。だから、私とつるんでいた子たちはみんな違うクラスになった。

 新学期、初めての日はかったるかった。私への周りの反応を探るのがめんどくさかったから、始業ぎりぎりで教室に入った。

――なんだ、この空気は。私が入って行ったときに絶対空気変わっただろ。

 みんな楽しそうな顔をしてしゃべっていたのに、私が入っていったとき、声の大きさが変わった。しゃべるのをやめて黙ったやつもいた。

 

 隣の席に座っていたのは、美智子という子で、この子がどうも気に入らなかった。その子は私のことをあからさまに避けていた。隣に座っているのに、顔を向けない。反対側ばかり見ている。

 普通に生きている感じの子だ。

 私はその美智子という子にわざとこちらから絡んでいこうと思った。私が思う好きになれない子の代表として。

 二年生になる春休みに髪を染めた。ぎりぎり教師たちが文句を言わないような色にした。お父さんも前、学校で教師たちに声を張り上げてくれたから、私に何か言ってくるような教師はいない。

 私は好きなように生きる。


 勉強もする気になれない。

 中学を卒業したら高校へと進学するだろうけど、特に行きたいと思う高校もない。それに、いつかはお父さんの会社に就職すればいいんだし・・・。

 数学の授業、全く理解できなかった。小学校の頃から苦手だったけど、中学の数学はまるで何を言っているのか分からなかった。一年生の途中でもう分かろうとすることをやめた。

 うざい数学の教師が毎時間、隣の人と答え合わせをさせる。

 美智子という子は私にいやいやノートを見せる。

 私は何もやってないから見せるページもない。美智子という子のノートを無視して自分のノートに落書きをしてごまかしていた。

 その時間もまた、隣の子と答え合わせをしろと言われた。

「めんどー」

 自分のノートに鉛筆で書いた。

 美智子が私のノートを覗いた気がした。やってないのは分かっているくせに。

「消しゴム貸して」

 美智子に声をかけてみた。自分の消しゴムがなかったわけじゃない。なんでもいいから美智子に嫌な思いをさせたかっただけだ。

 美智子はよく聞こえなかったのか、それとも私から声をかけられて驚いたのか、きょとんとした顔をした。

「消しゴム」

 もう一度言ったら、新しそうな消しゴムを渡してきた。

「めんどー」と書いた落書きをその消しゴムで消した。

返すときに持ってたカッターで小さく切ってやった。

 美智子は切られているのを見たのに何も言わなかった。こういうのがこの子の嫌なところだ。思うことがあれば言えばいいのに。

「めんどー」と書いてあったところにもう一度落書きをした。


 エアコンの温度はおそらくそのままだ。下げたふりだけしてあけみは隣の部屋にいってしまった。私はじゃまものなのだろう。汗で体中がじっとりとしている。

 ベッドに横になったまま、あの後、美智子とはどうなったのか思い出そうとしていた。目をつぶってあの頃の教室の様子を思い出していた。


 同じクラスに副島という男子がいたことを思い出した。その子はいい奴だと思っていた。わたしにも朝会うとあいさつしてくれたり、落とした鉛筆を拾ってくれたりした。

――そうだ、思い出した。ノートに書いた落書き。

 あの後、ノートに書いたんだ。

「かかわるな」って。




 

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