第7曲目 トゥルートラッシュ!

ミユきゅんが僕のことを認知していた?名前は間違えていたけど確かに「遊馬あすま」は「遊馬ゆうま」とも読める。と言うかどっちかと言うと「遊馬ゆうま」の方が主流な気もする。


もしかして認知されてないと言うのは僕の勘違いだった?

イヤ、でもあの日ミユきゅんは僕の事を初見客と勘違いしていた。

かと言って「遊馬あすま」と「遊馬ゆうま」こんな偶然あるだろうか?


30分ってこんなに早く過ぎるっけ?


心臓のバクバクが止まらない早まる鼓動こどうとシンクロするかのごとく時計の秒針も駆ける様に回転を早める。


「柏木ィありがとねェ〜バイト代には少しイロ付けとくから」


終わってしまった…


遊馬ゆうまくん…どこか他のとこ行こうか」

「そうだね…」


街道かいどうを2人並んでテクテクと歩く。遅い訳でも早い訳でもない普通の速度で。


握手会やチェキ会などでは到底とうてい近付けない距離のドキドキよりも、思い当たりのない呼び出しへのドギマギがまさって顔がる。


「この辺りでイイかな」


ミユきゅんが選んだのはそこそこ敷地面積しきちめんせきのある子供がチラホラと親と一緒に遊んでいる公園だった。ANIMAのライブを観に来る層の人間は居ないが人目の多い場所で危機管理がしっかりしている。マネージャーさんの入れ知恵だろうか。あの人は目が鋭く、メガネの奥から何でもお見通しみたいな雰囲気がある。


あの人全部気づいてたんじゃないか?


でもミユきゅんのこの様子では気づいても彼女には言っていなかったっぽい。


「ワタシがANIMAとしてデビューした時にね、来てくれたお客さんってたったの20人だけだったの」


とうとつにミユきゅんが話を切り出す。


それは僕も知っている。僕もその20人のうちの1人だったのだから。


「しかも、そのうちの12人は真木さんのツテで来てくれた偽物サクラ客だったんだよ」


それは初耳だ!


偽物サクラじゃ無かったひとたちも半数は他の子に推し変しちゃうし残りの4人のひとり以外はぜェーんいん!ルナちゃんがさらってっちゃった」


残るは…


遊馬ゆうまくんだけが私のイチバンのファンだったんだァ」

「知らなかった…」


僕が…一番…


「だから3ヶ月前、はじめは風邪とか体調不良かなって思ってたのにパタって来なくなっちゃったから、結構悲しかったんだ…やっぱ、飽きちゃった?」


「そんな事ないよ!そのォなんて言うか…ここ3ヶ月はバイトと学校で忙し過ぎただけだったから!」


こんな所で嘘を吐かなきゃいけないなんて…


「ANIMAに…私に飽きたんじゃなくて?ホントに忙しかっただけッ?」


「僕がミユきゅんの事飽きるなんてありえないよ!」


「…よかったァ」


ミユきゅんの目がほんのりとうるむ。


遊馬ゆうまくんの話聞けてよかった。ゴメンね引き止めちゃって。ライブ、時間に余裕ができたら来てね。私、待ってるから」


ミユきゅんはニカっと笑って公園の階段を降りて、見えなくなった。


嘘…じゃないよな…


「僕に意気地いくじが無いだけだッ…」


遊馬あすまはバッグの肩紐かたひもを強く握りしめた。中に入ったアスマの化粧ポーチが腹に食い込む感覚が妙に気持ち悪かった。


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