第4.5曲目 ケアパンデミック!

ミユきゅんと会う時は女装をする僕だけど、別に常時女装をしている訳じゃない。


ペタペタペタ


そもそも女装はミユきゅんに会う為の手段であって僕の趣味ではないのだから。


ぬりぬりぬり


僕は別にそんなに女装をしたい訳じゃ…


「なァ、遊馬あすま。お前何してんの?」

「ン?何って、スキンケアだけど?」

「イヤ、それは分かるよ!?何でお前がしてんのって事!」


コイツはたちばな晴稀はるき。一緒にANIMAのライブを見にいく仲で、唯一僕が女装をしている事を知る信用の友達ヲタク仲間だ。ちなみにルナ様が推しだ。


「何でって、肌荒れ防止の為だけど…?」

「いやいや嫌、お前がなのは知ってるけど、確か趣味とかじゃないんだろ?」

「うン、そうだよ?」

「きょとンとすんなって、化粧けしょうするなんて、ホントの女子みたいじゃんか」


何と!晴稀に僕のスキンケアがそんな印象を与えていたなんて!これは友として断固だんこ正してやらなくては!


「晴稀、お前勘違いしてる様だけどな…」

「おう…」

「これは化粧じゃなァぁああい!」

「だはっ」


晴稀がその場でずっこける。真剣に話しているのに失礼な奴め。


「これはだ!」

「おんなじだろ!」

「イヤ、全然違うね、スキンケアって言うのはいわば下拵したごしらえの事だ。から揚げに下味を付けないまま、余分な脂身を切り取らないまま、肉を揉まないまま油で揚げたりしないだろ。」

「ボソッ(ウチのかぁちゃンするわそれ…)」

「兎に角、毎日のスキンケアの積み重ねが大事なんだ!」


この手の話になるとどうも遊馬はノンブレストークマシンガンになってしまう。


「でも、やっぱ男がスキンケアなんてしっくりこねぇよ。女々めめしくね?」

「こンのバカタレ!男こそスキンケアが大事なんだぞ?男は女の人に比べて肌が乾燥しやすい、その上髭を毎日そればさらに乾燥しやすくなる。そんなボロ雑巾みたいな肌で紫外線に当たってみろ!死ぬぞ」

「夏じゃないし大丈夫でしょ。冬は紫外線が6分の1くらいしかないんだろ」

「だまらっしゃい!確かに紫外線のUVBは6分の1まで減少するけどUVAは2分の1しか減少しないんだぞ!」

「そのUVなんとかって何だよ?」

「UVBは皮膚の表面に作用して日焼けを引き起こす紫外線。UVBは皮膚の奥深くに作用してを引き起こす紫外線だ」

「シミってあのシミ?」

「そう、あのシミだ。シミのある男はモテないし男のシミは落ちにくいぞ」


冬なのに晴稀のデコに一筋ひとすじの汗が流れる。


「で、でも俺シミなんてスキンケアして無ぇけど出来てないし…」

「イヤ、生まれてから今まで夏も日焼け止めを塗って来なかったお前の皮膚の下にはシミの予備軍がいっぱいあるはずだぞ」


「「「「「「何だって!」」」」」」


晴稀と教室中の男子が一斉に立ち上がった。遊馬はここが昼休みの教室である事を忘れていた。


「スキンケア用品ってどこに売ってんだ!?」

「俺日サロ通ってんだけどどうしよう!?」

「かぁちゃンの使って良いかな!?」


矢継やつぎに質問が飛び交う。


「ドラックストアで買える。日サロはWHOが18歳未満は通わない方が良いって言ってるからヤメろ。親のは使うな、高いやつだったら殺されるぞ」


この日から私立桜ヶ丘高校2年の間で男子のスキンケアが流行り、近くのドラックストアからメンズスキンケア用品がごっそりと消えることになったが、それがただの女装高校生の一言による為だと知る人は当事者を除き誰もいなかった。



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