プレゼント

その途端、先生の両腕にグッと力が入ったのが分かった。

「え?鈴村・・・」

ああ・・・私って本当に卑怯な子。

今が私からの言葉を一番拒絶出来ない状況だと、私は知っている。

私の心をかろうじて支えているのが、あなた一人しかいないこの状況。

そんな中で拒絶するにはあなたはあまりに優しい。

本当はこんな状況で言いたくなかった。

せめてこの言葉だけは、普通の女の子としてあなたと真っ直ぐ向き合って言いたかった。

でもごめんなさい。

もう無理なの。

それをするには私はあまりにも汚くなっちゃった。

私は先生の首に両腕を回して顔を近づける。

先生の顔が近い。

息づかいまで分かる。

「先生・・・私、今日誕生日なんです」

「・・・知ってる」

先生は困ったような、泣き出しそうな、笑い出しそうな、そのどれなのか分からない表情だった。

可哀想な人。

こんな私に捉えられてしまって。

でも、もう遅いの。

諦めて。

私は唇をさらに先生の唇に近づける。

触れるか触れないか。そのギリギリの所で止め、囁くように言った。

「もう一個プレゼントが欲しいです」

そして目を閉じた。

あなたが拒絶しようとしてもいつでも奪うことが出来る。

だが、少しの間を置いて先生の唇が私の唇に触れたのが分かった。

脳の奥に電流の様に走る甘い疼き。

私はそれを逃したくない一心で夢中になって吸い付いた。

何度も何度も。

私は淡い期待を込めて唇を僅かに開く。

先生、わたしもっとおねだりしたい。

すると先生の舌がその隙間から入ってくる。

その暖かさと生々しさは清水先生の時と変わらなかったが、今はとても甘い味がして頭の中が満足感で真っ白になる。

脳の中に光?電気?が無数に走って行く。

私は唇を話すと思わず深い吐息をついた。

夢中になっていて呼吸をすることを忘れていたらしい。

「は・・・あ・・・」

先生は心なしか目を潤ませている。

こんな私で・・・いいの?

いや、そんな事はどうでもいい。

「あ・・・ふう・・・ん」

先生の目を見つめながら、まるで飢えた動物が餌を求めるように荒々しく先生の唇に吸い付く。

「好き・・・先生。好き」

そう、文字通り私は動物のようだった。

手に入れた獲物を逃がさないように。

獲物の全てを血の一滴までむさぼり食おうとするかのように先生の唇に、頬に唇を押しつけ口の中に舌を入れる。

もう絶対逃がさない。

どんなことをしても。

あなたの全てを食べ尽くす。

いや、身を食べ尽くして魂の欠片だって飲み込みたい。

あなたの全ては私の物。

あなたにそれ以外の選択肢は許さない。

性別とか年齢とか立場とか将来とかモラルとか、そんなのどうでもいい。

先生も私の舌に自分の舌を絡ませてくる。

そして、私の背中に両手が回されるのを感じた。

今までみたいな優しく包み込むものではなく、荒々しい力の入った感情的な物。

私は背中から電流が走ったのを感じた。

(勝った)

何に勝ったのか分からないけど、その言葉が浮かんだ。

私はまた唇を離すと、自分と先生の鼻の頭を軽く触れさせ、ジッと目を見つめた。

そして優しく微笑む。

「もっと・・・したいようにして。好きです、先生。私は全部あなたの物です」

そう言いながら私は片手でシャツを乱暴に胸の上までまくり上げる。

「あの人にこんなにされちゃった・・・酷い跡」

無言でじっと見ている先生の顔にそっともう一方の手を添えるとはだけた胸に押しつける。

「綺麗にして・・・山辺さん」

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