「清水・・・先生」

「あ、まだ先生って言ってくれるんだ。嬉しいな」

清水先生はそう言うと笑顔を見せたが、それは学校で見せていたような少女のような天真爛漫な物では無く、皮肉っぽいどこか歪んだような笑みだった。

「お久しぶりね、鈴村君。山辺君のアパートの時以来かな?」

え?アパート・・・それに今、女の子の格好なのに・・・

私は混乱する頭で次の行動を考えていた。

先生のアパートまでまだそんなに離れていない。

数歩後ずさりした私に鞭のように言葉が当たった。

「いいわよ。その代わり、私も押しかけてあなたの事を全部しゃべるけど」

その言葉は私の心臓をわしづかみにした。

全部・・・知っている。

「乗って。あなたとゆっくり話がしたいの」

私は体を震わせながら、小さく首を横に振る。

「乗りなさい」

それは有無を言わせない重みがあった。

そしてその一言の裏にいくつかの意味があることも分かった。

私はゆっくりと車の助手席に乗り込む。

ドアを閉めるとシートベルトを締める間もなく清水先生は車を走らせた。

「都合の良いときだけ純真無垢気取るの止めてね」

その冷ややかな響きに、私はたまらずしゃくりあげ、そのまま泣き出した。

清水先生から向けられたものは、今までの人生の中で経験した事のないようなむき出しの憎悪だった。

それは私の理解を超える物で、恐怖で包み込んでしまうには充分だった。

そんな人の車に乗ってしまった。

今や生殺与奪の権を握られたも同然で、その状況も私の恐怖心に拍車をかけた。

もう逃げられない・・・

「もしかしたらなんだけどあなた『何で自分の正体がばれてるんだろう』って思ってる?それは決まってるじゃない。あなたがやった事をまんまお返しさせてもらったの」

私は無言でじっと身を縮こまらせていた。

「あなたの後をつけて、じっと聞いてたの。本当にラブラブで羨ましい。良かったじゃ無い?邪魔者を排除したあげく恋人気取りでプレゼントまでもらっちゃって。とはいえ、女装姿のあなたを見たときは流石にビビったけどね。あんなにハマってる変態君とは。あなたテレビにでれるんじゃ無い?」

「変態じゃ・・・ないです」

「変態よ。外の皮だけじゃ無く中身まで腐りきってる。男のくせに女装が好きです。男なのに男性の担任が好きです。恋敵を盗撮して退職に追い込みました。平気な顔して担任とイチャイチャしてます。あなた分かってる?自分がやってること。これ、バレたら山辺君マジで終りね」

清水先生の言葉は一言一言、まるで毒が染み込んでいくかのように、心に汚れを付けていった。

それに耐えきれず、顔を両手で隠して何度もイヤイヤするみたいに首を振った。

「あのさぁ、なんであなたが『可哀想な被害者です』みたいな感じになるの?泣きたいのは私なんだけど。あなたにまんまとハメられて教師も首になって。でしょ?」

「ごめんなさい・・・もうしません」

すると、清水先生は突然可笑しそうに吹き出すと、そのまま笑い出した。

「ちょっと・・・勘弁してよ。あなた、もっとお利口かと思ったら・・・やっぱりあなただったのね。私をハメたの」

え・・・

私は清水先生の言った言葉の意味が理解できず、ぼんやりと顔を上げた。

「世間知らずの昭乃ちゃんに教えてあげる。今のは『カマをかける』って言うの。今回のこと、多分あなただろうな~と思ったけど、証拠もないしすっとぼけられたらどうしようも無かったからあえて追い込んで『あなたでしょ?』って適当に言ってみた。そしてあなたの反応を確認したの。そしたら案の定。最悪人違いだとしても、今更失う物も無いしね」

私は呆然とした。

やられた・・・

「さあ、昭乃ちゃんはしっかり白状した事だし。本題に入るね。・・・その前に」

そう言うと清水先生は車のスピードを上げて、国道に入った。

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