驚き
3時間目の授業が終わり、昼休みのチャイムを聞いてからしばらくして私は弁当箱を持って少女像の所に向かった。
清水先生や隣のクラスの女子たちと昼を食べると聞いて、健一は大げさな表情と身振りで「なんで俺は声かからないの」とぼやいていたが、雄馬は特に反応も少なく「昭乃が誰と食べたって勝手だろ」と言うのみだった。
元々クールな所はあったが最近ちょっと様子がおかしいので気になってしまうが、その事を聞いても「大丈夫だよ。俺だって考え事くらいするよ」と流されてしまったため、それ以上聞くことが出来なかった。
「今回だけだよ。次からはお役御免だよ」とわざと軽い口調で言いながら、後ろ髪引かれる気持ちではあった。
そんなやり取りのせいで、集合時間に遅れてしまった。
だが、待ち合わせ場所に向かうとひときわ声の大きな木下さん、心地よい高音で笑っている清水先生に混じって聞き覚えのある男性の声が聞こえ、私は胸がドキッと音を立てるのを感じた。
え?
慌てて駆け寄ってみるとそこには山辺先生がいた。
え?嘘?
山辺先生は清水先生の隣に座っており、端っこでみんなの話をニコニコと聞いていた。
私は心の準備が出来ていなかったので、かなり慌ててしまっていた。
だが、清水先生が私を見つけて「鈴村君」と手を振ったのを見て、すぐに頭を切り替えた。
「あっ!本当に鈴村君来てくれたんだ!ナイス」
「やったー、今日のメインゲスト!」
清水先生と木下さん以外に二人の女子が清水先生を挟む形で座っていたが、私の方を見てかなりはしゃいでいる。
それを見てニコニコ笑っている清水先生を見て、まるでお母さんだな、と他人事のように感じた。
そんな事よりなぜ山辺先生が。
私の目線と不思議そうな反応を見て察したのか、清水先生が言った。
「今回木下さんからお昼食べようって声かけてもらって、それを山辺先生に話したの。せっかくだからご一緒にどうですか?って。大勢で食べた方が楽しいですもんね。先生」
「有り難うございます。たまにはこうして生徒とご飯を食べるのもいいですね。新鮮で」
「そうよ!しかもこんな美人揃いなんだから、感謝しないと。先生彼女いないんでしょ?たまには女子と絡んでないと、干からびちゃうよ」
木下さん、なんて失礼な事を。
だが、彼女のからっとした口調だと、不思議と嫌な感じがしない。
「鈴村君。こっちこっち。私とこの子の間に座って」
そう言うと佳子は自分と清水先生の向かって右側に座っているポニーテールの子の間を指さした。
って言うか山辺先生、彼女いなかったんだ。
その言葉に私も気分がさらに浮き立ってしまった。
「先生、彼女いないんだ?意外とモテないの?」
私のからかうような口調に山辺先生は、困ったように笑った。
「意外なんて言ってくれるの鈴村だけだよ」
「そうだよ、鈴村君。山辺先生、ハッキリ言って女子人気ゼロだよ」
木下さんが笑いながら言った。
「えっ!そうなの?僕ってゼロ?もうちょっとあると思ったのに」
「それはうぬぼれ。女子の目は厳しいんだから。とりあえずもっと髪型からどうにかしないと。そんなボサボサヘアーじゃね。それ直せばいい線行ってるのに。ね?鈴村君」
木下さんが私の方を見て言った。
「こら、木下さん。山辺先生に失礼でしょ。十分魅力的な方じゃない。ねえ、先生」
清水先生がたしなめるように言った後、山辺先生に向かってニッコリと笑った。
「いやいや、フォロー有り難うございます。先生に言って頂けるだけで充分ですよ」
苦笑いで話す山辺先生に女子たちは甲高い声で笑った。
「やった!カップル誕生」
「もう、いい加減にしなさい!」
清水先生が困った顔で言う姿を見ながら、ああいう人が本当に居るんだな、としみじみ思った。
見た感じは肉感的で女性としての魅力を振りまいているのに、仕草や口調は大和撫子みたいな佇まいで、言葉や表情に全く嫌みな所が無く、周囲全ての人に均等に愛想が良い。
天然なのか計算なのか。
本当に羨ましい。
私がゆくゆくは目指したいところでもあるので、本当ならそういった所を教えてもらいたいけど、出来ないのがもどかしい。
その点この子たちは簡単にそれが出来るんだろうな・・・と内心ため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます