愛嬌
雨の日と月曜日は気が滅入る。
変よね。私に出来ることはただあなたの元へ駈けていくことだけ。
頭の中で「雨の日と月曜日は」のフレーズが繰り返し浮かんでいた。
その旋律を浮かべると、昨日の事が改めて思い出される。
私と先生の間でしか共有されていない出来事や音楽。
それを考えると心がぽかぽかしてくるようで何だか心地よい。
やっぱり登校して良かった。
他の生徒は先生の話が退屈なのか、ひそひそと話しをしたりぼんやりとしていたが、私は先生の優しい声と口調をもっと聞いていたいと感じた。
先生の声が耳を通って胸の中に染み込んでいくような。
みんなは先生の事を知らない。
飼い犬を見捨てることが出来ずに犬用の車椅子を使ってあげていることも。
カーペンターズを大好きなことも。
度々緑地公園でジョギングをしていることも。
心にギュッとふれるような格好いい言葉を持っていることも。
私だけが知っている。
もっと増やしたい。そんな事を。
そんな事を思っているうちに先生のホームルームは終わり、1時間目が始まった。
山辺先生と入れ替わりに数学を担当する清水 香先生が入ってくると、先ほどまでの弛緩しきった雰囲気はどこへやらとばかりにクラスの中が浮き立った。
「はい、みんなおはよう。今日もみんな元気で先生嬉しいな。今日の授業もよろしくね」
清水先生はそんな雰囲気など気にも止めずにいつものにこやかな笑みを浮かべる。
軽くカールした茶髪にパッチリした瞳。それに分厚く形の良い唇と魅力的なスタイル。
それに加えて、独特のふんわりした雰囲気や話し方で男女問わず生徒の心を掴んでいた。
特に男子からの人気は絶大で、一度別のクラスの男子が清水先生を結構な至近距離からスマホで撮った時などは、私のクラスの男子までその画像を送ってもらおうとその生徒の所まで行っていたほどだった。
かくいう私も清水先生と居ると自然と心が緩むというか、こちらまでほんわかとしてくる不思議な感覚になるのが好きだった。
あと、こんな女性になれたなら・・・と言う憧れもあった。
そんな清水先生と昼を一緒に食べないか、と言う声をかけてきたのは隣のクラスの木下聡子だった。
彼女は雄馬の知り合いとの事で、その縁で以前数回ほど昼食を一緒に食べた事はあったけど、それ以来関わりの無かっただけにかなり驚かされた。
「あ、うん・・・いいけど」
しまった。驚いてつい了承しちゃった。
「ホントに!嬉しい!じゃあ決まりね。『祈りの少女像』の所でお昼にするらしいから昼休みになったら来てよね」
一人でまくし立てると木下さんは早足でクラスに帰って行った。
嵐のように現れて・・・って感じ。
まあでも、清水先生とも一度お昼をしたかったから、それはそれでありかも知れない。
あ、そうだ健一と雄馬に昼食べるの断っとかないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます