意識

【意識】

悶々として眠れなかったせいか、目の下のくまが酷い。

心なしか顔色も悪い気がする。

まぁ、ほぼ寝ていないんだから心なしかじゃ無く本当に顔色も悪いんだろうけど・・・

この顔のままで学校に行くのは嫌だったので、朝食を急いで済ませるとポットを部屋に持ち込んでお湯を出し、タオルを温めると目にしばらく当てた。

それを繰り返している家に何とか見られるようになってきたので、学校に行くことにした。

今日は4時間目は数学か・・・

山辺先生は数学を担当しており、4時間目は数学だった。

朝夕のホームルームと4時間目の授業。

今日は先生と多めに顔を合わせる。

それを思うと、学校に向かう足取りも自然と速くなってくる。

私は先生に会うのが楽しみなんだ。

昨夜は自分のよく分からない気持ちに動揺していたが、一晩経ちハッキリとその姿を自覚していた。

私は・・・先生の事が・・・

そこまで考えたとき、突然背後から背中を叩かれたので思わず「ひゃあ!」と甲高い声を出してしまった。

慌てて振り返るとそこには雄馬がポカンとした表情で立っていた。

「あ、お・・・おはよう」

自分でも驚くほどうろたえながら言葉が出たので、それに対しさらに動揺していた。

自分の心の中を見られてしまったようで、たまらなく恥ずかしい。

一人でテンパっている私をみて雄馬は苦笑いしながら言った。

「悪いな。今度から先に声かけるよ」

「い、いや。ごめん。ちょっと考えごとしてて」

「大丈夫か?何かすっげえ酷い顔しているけど」

「えっ!嘘でしょ!」

しまった。動揺して思わず素の口調が出てしまった。

だが、雄馬は気づいていないようだった。

ほっ。

さっきの驚いたときの声と言い、気をつけないと。

いやいや、そんな事よりも酷い顔って。

「え?そんなに不細工になってる?」

「ああ。顔色は悪いし、目の下は結構なくまが出来てるし。昨日寝てないの?」

「ちょっと・・・」

「そうか。あんま考えすぎるなよ。力になれる事なら俺や健一に話せよ」

「有り難う。でも大丈夫だから」

本当に雄馬はいつでも私の微妙な変化に気づいて、声をかけてくれる。

健一が私の変化に鈍感で、ストレートな言い回しを好むタイプなのに対して、雄馬は私の些細な変化に気づいてはさりげなく配慮してくれる、と言う感じなのだ。

ただ・・・今回のような場合は雄馬の観察眼の良さがヒヤヒヤさせられる。

「ゴメン。鏡とか持ってる?」

「あるよ。はい」

雄馬から借りた鏡で自分の顔を慌ててチェックした。

本当は自宅には化粧用のコンパクトやお気に入りの可愛い手鏡もあったものの、流石に学校には持って来れないし、学校ではあえて外見に無頓着なように振る舞っていた。

それも地味にストレスなのだが、一旦ここを緩めると学校内で鏡を見る事を始め、外見を整える行為にどんどん没入しそうな気がして不安だったのだ。

それはさておき、鏡に写る自分はなるほど雄馬の言ったとおり酷い顔だった。

許されるなら今すぐにファンデーションとリップを塗りたいくらいに。

頬や唇は青くなり、目も充血している。

何より目の下が見てすぐに分かるくらい浅黒い。

私は泣きたくなって鏡から目を離せなかった。

こんな顔で先生と会わないと行けないなんて。

本気でこのまま体調不良と嘘ついて早退しようかと思えてくる。

「少し急がないと間に合わないぞ」

ハッとして時計を見ると確かにギリギリだ。

しまった。思わず立ち止まって鏡を見てしまった。

「やばい、悪いな付き合わせちゃって」

「いいよ。行くぞ」

雄馬はさらに歩調を早めていた。

急がせちゃって悪いことをした。

そりゃ機嫌も悪くなるだろう。

その後、何とか間に合って教室に入ると健一が驚いたような表情で私たちを見た。

「珍しいな。お前たちが」

「昭乃が自分の顔が気になるみたいでな」

「えっ、なになに」

健一が聞こうとした時、山辺先生が入ってきた。

私は自然と体が固まるのを感じた。

だが、幸い私の席は最後列のため先生の顔はそこまでハッキリと見えない。

と言うことは先生からも私の顔はあまり見えないと言うことだ。

ホッとしながら改めて前を見る。

教卓に上がった山辺先生を思った以上にじっと見入っている自分がいた。

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