第8話みんな君に頼られたい
出会いの場配信を一望できるところからみんなの様子を眺めて時が来るのを待っていると
「葛篭は本当にすごいのね......」
さっきまで出会いの場内を忙しそうに走り回っていたイキシアさんが俺の隣まで歩いてくる。だがその声にはいつものクールさがなく、力がこもってない。
「葛篭はこんなにも多くの人に出会いと笑顔も与えてるのに......それに比べて私は......」
イキシアさんは顔を曇らせて下を向いてしまう。
俺は初めてイキシアさんが弱っているところを見て、思わず手を伸ばした。
「......ええっ!」
イキシアさんは驚いて、ビックリした顔で俺を見上げてくる。
その子供っぽい反応が新鮮で可愛らしくて俺はイキシアさんの綺麗な銀髪の上にポンと置いた手を動かして優しく撫でる。
「......」
彼女は恥ずかしそうにして顔を赤く染めるが嫌がらない。
俺は彼女に下を向いていて欲しくなくて元気な声で彼女に語りかける。
「ここにいるみんなに出会いと笑顔を与えたのはイキシアさんですよ! 誰よりも一所懸命配信の準備をしてたじゃないですか!」
「......そ、それは私が言い出しっぺだったから......」
イキシアさんはそこで言葉を切らす。俺は何が言いたいかわかっていたがあえて聞いた。
「言い出しっぺだから何なんですか?」
「えっ? 何なのって......だから、私が大学で配信しようって言ったから......私が1番頑張んのは当たり前のことだわ......」
イキシアさんならそう言うとわかっていた。だけど俺はイキシアさんを否定する、彼女のその考え方を否定する。
イキシアさんはもっと自分を甘やかしていい、自分に厳しすぎる。俺はそれを伝えるためにわ・ざ・と・ここにいたんだ。
「......それが間違ってるんですよ」
イキシアさんの頭を撫でるのをやめて小さな声だがあえて嫌味の混ざった声で言った。
イキシアさんは一瞬名残惜しそうに俺の手を見たが、すぐにカァッと頭に血が上り、
「なに? 私が頑張るのが間違ってるって言いたいわけ?
言い出しっぺが1番頑張んないで他に誰が頑張るわけ? それで配信が上手くいくわけ?」
いつもの冷静さを完全に忘れ、怒りのままに次々と言葉を並べて、言い終わると怒りのこもった青い瞳で俺のことを睨んできた。
それは今までに見たことないほどの怒りで、いつもの俺なら間違いなくすぐに謝っていたが、この日の俺は違った。
「イキシアさんの話で言うなら、1番頑張んなくちゃいけないのは俺になりますよ」
「へっ?」
イキシアさんは、思いっきり怒りをぶつけているのに俺が謝らずに言い返してきたことと、さらにその内容が予想外なこともあって、怒りを忘れたかのように素っ頓狂な声をあげる。
「実際に出会いの場配信するのは俺ですよ。だからイキシアさんの話で言えば、1番頑張んなくちゃいけないのは俺です」
そう言って真っ直ぐとイキシアさんを見る俺の顔は多分すごく優しい顔をしていたと思う。
イキシアさんは数秒俺の顔をじっと見つめる。
そして何かを諦めたかのようにゆっくりと近づいてきて、自分の額をそっと俺の肩に置いた。
その瞬間イキシアさんの髪からシャンプーのいい香りがして、俺の鼻腔を刺激し、お腹あたりには柔らかいものが当たる。
俺は皐月以外の女の子、いや女性に抱きつかれる? のは初めてで体が燃えるように熱くなり、心臓の音がうるさい。
「イイイイイイキシアさん?」
さらに緊張のあまりに声は上擦る。でもイキシアさんは気にせずに続けた。
「確かに私の話だと、私が1番頑張るのはおかしいわ......葛篭が1番頑張るべきだったわよ」
イキシアさんは自嘲気味に笑いながら言う。俺は心臓をドキドキさせながらも、イキシアさんの頭にもう一度手を置き、撫でる。
「本当は......ずっと無理してたわ......でも私がーー」
「イキシアさんは人に任せっきりの俺をどう思いますか?」
俺はイキシアさんの言葉を遮るように質問をする。
「......そうね、あなたが何もしていない人だと思うことはないわ」
「......だったら、そう思えるなら、イキシアさんだって俺たちにーー」
「私はみんなの姉貴だもの、私が頑張ってみんなの負担を減らさなくちゃ......」
俺は一瞬返す言葉が見つからないかった。イキシアさんに無理させているのは姉貴という肩書きのせいだったのだ。
それでも、それでも姉貴であることが無理する理由になんてならない。俺はイキシアさんの両肩を掴み、まっすぐイキシアさんの目を見る。
「......それじゃ、姉貴が弟分と妹分に心配かけてどうするんですか!」
俺は悔しそうでいて、イキシアさんを責めるような口調をしていたと思う。
するとイキシアさんは俺の言葉を聞いて、ハッとした表情をして、
「そう......だわね......そんなことにも私は気づかないなんて......」
その後に言葉は続かなかった。少しの間沈黙してから
「姉貴......失格ね」
イキシアさんは自嘲気味に言う。
俺は自分を責めるイキシアさんをこれ以上見ていられなかった。
無理をしてまで人のために動ける人がどうして自分を責める必要がある?
その瞬間俺はイキシアさんの手を取る。
「ええっ、葛篭いきなりどうしたの?」
俺は慌てる彼女を引っ張って、駆け出す。
「イキシアさんは知るべきなんです!」
ーーみんなが君に頼られるのを待ち望んでいることを
それを伝えるために
出会いの場へ向かった。
タイトル変更しました。
ようやく銀髪留学生が中心になっていきます。
出合わせ系配信者、出会いの場を作って配信しまくっていたらいつの間にかS級美女たちが集まるようになっていた件〜義妹は無自覚な兄が心配です〜 エンジェルん@底辺作家 @suyaka
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