第7話小さな出会いを俺は決して忘れない
「スリー、ツー、ワン、スタート!」
皐月の掛け声とともに配信が始まる。
「はい、どうもみなさんこんにちは、出会わせ系ヨーチューバーのミーチューでございます。なんと今回からですね、僕は仮面をつけずに顔出ししたいと思います! さて、今回の出会いの場の舞台は――」
今日、ついに大学で出会いの場配信をする日を迎えた。
あの日イキシアさんが俺に罰? を与えてから3週間、俺たちはヨーチューブ撮影の許可やら、外部から多くの人を招く許可やらをもらうために大学内を走り回り続けた。
その間に一時的に出会いの場配信サークルができ、創設1日でサークルの部員が100人を超えるという異常な人気っぷりを見せた。
人数が多ければ当然争いが生まれてきた。
「参加者の対象は医学部に興味がある人でいいだろ!」
「それじゃオープンキャンパスと一緒になっちゃうじゃない!」
「だから対象を小中高生全員にすべきだって? それも結局医学部に興味がある人しか来ないだろ!」
対象者が決まらず、なかなか先に進めない。これを決めないと宣伝もできなければ配信の規模もイマイチ定まらない。
3時間ほど言い争いが続いていたところに
「ドンッ」
いきなり思いっきり机を叩く音が会議室に響き渡り、一瞬で会議室が静かになる。
みんな恐る恐る音がした方を見るとそこには
クールに腕を組んで堂々と立っているイキシアさんがいらっしゃった。
「ゴクリッ」
その場にいたほとんど全員が同時に唾を飲み込んで効果音まで出来上がってしまう。
そんな中、思わずツッコンでしまった猛者くんがいた。
「腕組んでてどうやってそんなに音がでんねん!」
(((((......それな!)))))
イキシアさんはその猛者くんを氷柱を突き刺すかのような目で一瞥すると、猛者くんは体をガクガク震わせながら謝罪する。
「も、申し訳ございませんでした! 責任とって自害(退部)します!」
「そうね、あなたがそう言うならそう(退部)しなさい」
猛者くんが変な表現するし、イキシアさんが微妙に言葉足らずなためみんな誤った解釈をする。
(((((イキシア様の機嫌を損ねたら自害を命じられる!)))))
この瞬間出会いの場配信サークルはワンチームになった。
その後の会議はイキシアさんを中心に進められ、イキシアさんが俺に意見を聞いてきたから
「医師は......人を選びません......」
俺が思ったことをありのまま伝えたら
「そう......だわね、医師は決して人を選ばないわ!」
なぜかイキシアさんは少しテンションをあげて俺の意見に賛同し、他のみんなもあとに続いて賛同してくれて、ようやく次の段階に進むことができた。
部員が100人以上もいたおかげで色々な方向に精通している人がいてその後の作業はとんとん拍子に進む。もちろん我が学校のツイート王、楓くんのつぶやきは効果絶大だった。
そうやってみんなで協力して俺たちは本番の日を迎えた。
「この度は第6回出会いの場配信にお越し頂き誠にありがとうございます。本日は天候にも恵まれて雲一つない晴天――」
俺は大学の知り合いの前で、いつもの調子で配信するのが恥ずかしくてはじめの挨拶を長々と話し続ける。
「ふーふーいつもより固いぞー」
「そうだそうだ! いつもそんなこと言ってねぇーだろー」
当然いつも配信を見てた野郎どもが冷やかしを入れてくる。
「えーと、他に何か話すことはーーあっそうだ! あれがあったか――!」
「......おにぃさんまーーーだーーー?」
「......」
6歳か7歳ぐらいの女の子がいつの間にか俺が立っている小さな舞台に上がってきて、俺のことを見上げながら可愛く服をチョチョイと引っ張ってくる。
「......話は以上です。ではみなさん、良き出会いがあらんことを! 出合い場交流スタート!」
俺は言おうとしていたことを都合よく全部忘れて、高らかに右手を挙げながら出会い場交流スタートを宣言する。
なぜかこの時みんなからの視線がすごく痛かった気がするけど気にしないでおく。
ん? 楓くん? なんかものすごい速さでスマホタップしてるけど何を呟くつもりなのかな?
一応言っておくが、俺は決して度を過ぎたロリコンではない。
唐突なスタート宣言でみんな一瞬静かになるが、すぐに熱狂を取り戻して
「うおおーーー始まったぞー」
「医師の魅力を教えるぞー」
「ちょっとアンタたち看護師の魅力もよ!」
主にうるさいのは大学生だが、参加してくれた人たちは右往左往しながらも
「おっ! これ面白そうだよ、『あなたのお腹を覗きます』だって! 俺たちのお腹の中ってどんな感じなんだろう」
エコー体験に興味を持つ人
「見てみてー、ドクターワイ、私失敗しないから! なーんちゃって!」
手術服を着てモノマネをする人
「ワシはねー5年前まで心臓外科医でな、たくさんの人を手術して救ってきたんじゃよ。患者とその家族が感謝を伝えに来てくれた時はすごく嬉しくてな――」
自分の体験を伝えにくる人
「受験の時はどの参考書を使っていたんですか?」
参考書を片手に受験時のことを聞く人
今回もまたいろいろな人が参加してくれている。
「みんな......ここで出会ったことをずっと覚えててくれるかな......」
俺はみんなの様子を眺めながらボソッと呟く。
「うん! わたし、おにぃさんとであったことずっとおぼえとく!」
いまだに俺の服にしがみついている女の子が元気な声で言う。
俺は片膝をつき、女の子と同じ目線にして頭を優しく撫でながら
「ありがとね......俺もお嬢ちゃんのことを絶対に忘れないよ!」
その時遠くから
「きーちゃん!」
この子のお母さんと思われる女性がこちらへ走ってくる。
「ママ!」
女の子もそちらへ走り出す。
女の子はお母さんに飛びつき、抱きつきながら
「ママ! あのね、わたしね、おにぃさんみたいになるの!」
「あら! きーちゃんがお兄さんみたいに!」
お母さんは娘を抱きしめながら俺の方を向いてペコリとお辞儀をし、愛らしそうな眼差しで娘を見る。
俺は片膝をついたままその様子をしばらく眺めた。
「ねぇねぇ、どうやったらおにぃさんみたいになれるの?」
女の子はお母さんに抱きつくのをやめ、俺のところに駆け寄ってきて、再び服をチョイチョイと引っ張っぱりながら聞いてきた。
「そうだね、まずは......お勉強かな?」
「おべん......きょう?」
女の子は可愛らしく首をこてんっと傾げる。
「そう。いっぱいお勉強してたくさんのことを知るんだよ」
女の子は少しだけ俺の目を見つめてから
「うん! わかった! いっぱいおべんきょうする!」
元気な声で言い、今度は俺に抱きついてきた。この子のお母さんと目が合うと、口をぱくぱくさせて
「この子に最高の出会いをくれてありがとう」
俺にはそう言ってるように見えた。
「おにぃさん、じゃーねー!」
女の子は手をブンブン振りながら元気な声で挨拶をしてくる。
「うん、じゃーね!」
俺もまた満面の笑顔をしながら大きな声で挨拶をする。
俺はこの小さな出会いを決して忘れない。
一応言っておきますが、これは銀髪留学生編です!
まだほとんど登場してないけどね!
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