第6話お兄ちゃんと一緒に寝る日は

 ――昨夜


 私はお風呂からあがると、お兄ちゃんにお風呂が空いたことを伝えるために再び部屋を訪れる。


 ガチャ......リ


 「お、お兄ちゃん? まだ寝てるの?」


 ドアからそっと顔を覗かせると、お兄ちゃんはベッドで寝ているままで


 「ううううう...待ってー......たす...けて」


 「お、お兄ちゃん!」


 必死に何か訴えるかのように苦しそうにうめいている。

 私は走ってお兄ちゃんの側に行き、頭を優しく撫でようと思って手を伸ばしたが思わず途中で止めてしまう。


 「......産まなかったらよかっ...た...のに...」


 私は呼吸をするのを数秒忘れてしまうぐらいショックを受けて、頭が真っ白になる。それでもお兄ちゃんの過去を知っている私はすぐに冷静さを取り戻し、手を再び伸ばしてそっと頭をなでる。


 「......やっぱり......今も苦しんでるんだね」


 お兄ちゃんが受けた仕打ちはあまりにもひどすぎる。12歳の子どもがに1人で取り残されるなんてありえない。


 奇跡的に私のお母さんがお兄ちゃんを見つけて、会うことができたからよかったけど......もしも会うことができてなかったら......


 私はその先のことを考えるのをやめる。


 お兄ちゃんは私が9歳のときに突然いなくなった。


 私はあまりに突然なお別れを現実として受け入れることができなくて、いなくなったのは嘘で今日行けばまた会えると思って毎日お兄ちゃんの家へ行っていた。


 そのうちに1週間、1ヶ月、1年経ち、その間決して会うことはなかった。


 それでも私は初恋の人を忘れることは決してなかった。


 そして今から4年前のある日の朝


 「ようやく見つけたわ!」


 お母さんが机をバンッと力強く叩きながら大きな声で言った。私はビクッとしながら


 「な、何を見つけたの?」


 お母さんは涙を流しながら


 「つづら君よ......生きててくれて本当によかった......」


 「つ...づら? えっ、お...兄...ちゃん?」


 「そうよ......いつも皐月と一緒に遊んでくれてた......」


 その瞬間どっと涙がこみ上げてきた。お母さんからお兄ちゃんが行方不明になっていると聞いた日から私は心のどこかで、


 もしかしたら既にこの世を去ってしまったのではないかという不安がずっとこびりついていた。


 「お兄......ちゃん。お兄......ちゃん。お兄ちゃん!」


 私は何度も何度もつぶやいた。


 その日のうちにお母さんはに飛び立ち、1週間後にお兄ちゃんを連れ立って戻ってきたのだった。



 私がお兄ちゃんの頭を撫でながら昔のことを思い出しているうちにお兄ちゃんはうめくのをやめ、規則正しく呼吸をしている。


 私はお兄ちゃんの左隣に寝転び、左腕をぎゅっと抱きしめる。


 「今度は私が絶対に離さないから......」


 小さな声で言う。


 「ふあぁ〜、少し眠たくなってきちゃった」


 「少しだけこのまま寝よう......少しだけ......」


 そのまま私は深い眠りについた。



+++

 「ちゅんちゅん!」


 「......ん......」


 「ちゅちゅん!」


 語りかけてくるかのようなかわいいさえずりを目覚ましに私は目を覚ます。


 何か良い夢を見ていた気がする。頭を優しく撫でられるような......


 あれ? なんか体が動かないよ......


 そこでようやく目をしっかりと開けると目の前には


 お兄ちゃんがいて私を抱き枕にしていた。


 寝起きで全然頭が回らないけど頑張って昨日のことを思い出す。


 そういえば......お兄ちゃんがうなされてて心配だから見守ってたら眠たくなってきて少しだけ寝ようと思って......そのまま寝ちゃったみたい......


 「キャッ!」


 お兄ちゃんが私の胸に頬ずりをしてきて気持ちよさそうな顔をする。


 (あわわわわわわわ)


 私はカァッと全身が熱くなりながらもお兄ちゃんを受け入れるが――


 わわわわわわ私今ブラつけてない!


 そのことに慌てふためく。緊張のあまりに心臓をバクバクにして固まっていると、心臓の音がうるさかったのか


 「うううう、うる......さい」


 寝言を言って頬ずりをやめ、私がいる方と反対向きに寝返りを打つ。


 私は一瞬だけ名残惜しそうにするが、すぐさま別の意味でカァッとなって


 「おおおおお兄ちゃんのバカ!」


 そう叫ぶと同時に私の反対を向くお兄ちゃんに枕を叩きつける。


 「グホッ!」


 そのまま私は部屋のドアを勢いよく開けてから


 「ガタンッ!」


 と勢いよく閉めて出ていく。


 「お兄ちゃんのバカバカバカバカ」


 そう言いながらも廊下をドタドタ歩く私の足取りはいつもより軽い。


 不思議と私はニコニコしていて、気分が高揚する。


 「今日の朝食は何にしよっかなー」


 お兄ちゃんの好きな食べ物がずらっとたくさん頭に浮いてくる。


 結局その日の朝食は


 「うわっ! 朝から豪華――てか量多いな!」


 思いついたものすべて作ったのだった。




 今語っているのは過去だということをわかりやすくするために章分けしました。


 どうしても先に過去を語っておきたかったんです!


 次回はついに配信回


 どんな出会いがあるでしょうか......


 今日中にPV2000いきたい!

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