第2話誤解はこうやって生まれる

 「お兄ちゃん、今の人知り合い?」


 「いや・・・・・・見たことない気が・・・・・・する」


 妹の皐月は黒髪清楚系美人が去って行った方を睨むように見つめる。


 「お兄ちゃん・・・・・・気をつけてね。今の人多分変装してたと思うから」


 「えっ、そうなの? ・・・・・・どうしてそう思ったの?」


 「今、走って行く時に髪が少しズレた気がしたの。多分変装用ウィッグをつけてるんだと思う。きっと髪の色も全然違う色だよ」


 我が妹ながらすごい洞察眼、全然気づかなかった。真偽はともかくとりあえず警戒しておくとしよう。


 「はあーーやっぱをするのは良くないのかな。あの人ももしかしたら俺のこの活動によって害を受けて仕返しの機会を伺ってたのかもしれない・・・・・・」


 「そ、そんなことないよ! だってお兄ちゃん今までにたくさんの人に出会いを与えて幸せにしてきたじゃん! それに・・・・・・お兄ちゃんに危害を加える輩がいたら私がぶっ飛ばすもん!」


 皐月が必死になって言ってくる。


  「・・・・・・花の女子校生がぶっ飛ばすとか言うのはやめなさい!」


 「いたっ!」


 ビシッと一発皐月の頭にチョップをお見舞いしておく。


 「妹にそんなことやらせたら兄の立つ瀬がなくなっちゃうよ、俺が皐月を守らなくちゃいけないんだから」

 

 「あり・・・がと、それならずっと側にいて・・・ね」


 皐月は体を縮こまらせながら言う。


 「当たり前さ! 皐月がたとえ誰かと結婚して俺の側から離れても何かあったら必ずすぐさま駆けつけるよ」


 もう、全然わかってない・・・・・・


「・・・・・むぅぅーーーお兄ちゃんなんてしーらない、何されても助けてあーげない!」


 皐月はぷくっと頬をフグみたいにふくまらせてそっぽを向く。もちろん皐月は冗談を言ったつもりだった。それでもトラウマというものが理不尽に俺の心を支配してしまった。


 「えぇぇ、ど、どうして助けてくれないの。皐月に見捨てられたら俺はどうすればいいんだよーーーーー」


 「ちょ、お兄ちゃん、声がおおき――」


 お兄ちゃんは突然膝から崩れ落ちて何かを思い出したかのようにすごく辛そうに息をする。


 はっ! まずいまずい、お兄ちゃんにこういう冗談はだった。を思い出させちゃう。


 「お兄ちゃん、嘘ついてごめんね。私はずっとお兄ちゃんのそばにいるよ。だって私は昔からお兄ちゃんのことが――」


 皐月は言葉を切らす。


 なんか今これを言うのは少しずるい気がする。

 お兄ちゃんは私たちがもっと気を楽にしていいんだよって言っても居候の身だからっていつも肩身を狭そうにしてきたもんね・・・・・・


 それに――お母さんが一昨年に亡くなっちゃったもん。お兄ちゃんにとってお母さんは命の恩人だったからね。


 お兄ちゃんはお母さんが亡くなった時、実の娘である私より泣いてた。


 「あの時は本当に助けてくれてありがとうございました。本当にありがとうございました」


 お母さんの右手を両手で握って何回も病室でつぶやいていたのを今でも鮮明に覚えている。


 今も一所懸命お金を稼いでるのってお母さんに対する義理があって、それを果たすために私の側にいるだけなのかな・・・・・・


 もしもそうなら、


 そんな義理必要ないよって言ってあげたい。


 お母さんはそんなこと望んでないよって私が――言わなければならない。


 でも、でも、どうしても聞くのが怖いよ。


 私はもうお兄ちゃんの側を離れたくない。


 


 私はしばらくお兄ちゃんを抱きしめて、頭を優しく撫でた。


+++

 「ぎゃーーーーーーーー」


 出会いの場配信を無事に終えた今日の夜、明日のための勉強をしていたら突然大きな悲鳴が家に響き渡る。


 何事にかあらん


 直前までやっていた古文に毒されながら皐月はまっすぐと悲鳴がした部屋を目指す。


 ガチャリ


 ドアを開くとそこには


 編集用パソコンを前にして頭を両手で押さえながらフリーズしている葛篭がいた。


 「全く、いきなり叫んでどうしたの? ビックリしたじゃん」


 「・・・・・・」


 返事が返ってこない。


 「はぁーー」


 ため息をつきながらやれやれと皐月がパソコンを覗き込むと


 「――え?」


 そこには皐月が葛篭を抱きしめて頭をぽんぽんしている写真があり、写真のすぐ下には


 「悲報、ミーチュー、女に逃げられて妹に慰められる」


 この見出しで文が綴られていた。


 皐月はよくよくあの時を客観的に思い返す。


 変な女がお兄ちゃんと話した直後に走って逃げてって、そしたらお兄ちゃんが突然膝から崩れ落ちて私が頭を撫でる。


 これは誤解されても仕方ないシチュエーションだったかも!


 皐月が葛篭をもう一度見ると


 いまだに固まっている。多分今度の出会いの場で散々冷やかしを受けることに絶望しているんだと思う。

 

 「えーと、と、とりあえずーードンマイ!」


 皐月が肩をポンポン叩くと 


 「ぎゃーーーーーーー」


 もう一度大発狂した。


 


 読んでくれた方がたくさんいて嬉しかったのでめちゃくちゃ頑張って書きました。


 (本当に頑張ったの! 褒めて欲しい!)


 次話の回想シーンが甘々の神回です。めちゃくちゃ丁寧に描写したつもりです。

 ぜひ読んでみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る